2006年4月16日,初めて受けた基本情報技術者試験の結果は,今でもはっきり覚えている。

午前580点
午後620点


 午前で20点足りなかったため,不合格となった。「午前と午後を合わせて1200点で合格ならいいのに」と,試験の合格判定基準を恨んだりもした。

 4月にシステム開発会社に入社してから,受験までの約2週間,1日の半分を資格取得のために費やした。会社では研修を受け,家ではテキストを読む日々が続いた。「それだけ勉強してこの体たらくか」と思うと悔しくもあり,同時に「1カ月未満の学習でここまでできたのだから上出来だろう」という気持ちもあった。

内定者時代,会社から受験を指示される

 そもそも私は,基本情報技術者試験を自分の意志で受けようと決めたのではなかった。多くのシステム会社がこの資格取得を社員に求めるように,会社から取得するよう強く言われて受験を決めたのだ。

 会社からは入社直後の4月に合格するよう言われていたが,当時はとても合格できる気はしなかった。そもそも,入社前に勉強する気が起きなかったのだ。まだ大学生だったため,大学の勉強もしなければならないし,旅行にも行きたい。集合研修やeラーニングなどの取り組みをしてくれる会社側の熱意は嬉しかったが,入社するまでの勉強方法はテキストを大学の往復の間に読む程度であった。

 本気で勉強をしたのは入社してから試験までの約2週間である。「業務だからやらねばならない」という使命感もあり,初めて聞く用語にうろたえながらも,どうにか知識を詰め込んだ。

 そうして,初めて受けた試験は不合格。「頭の中に入っていたのは,単なる用語の羅列で,意味はほとんど理解していなかったのだから当然だろう」と,今なら思える。テキストがそのまま頭に入っていたような状態だったため,使用していたテキストと表現が異なると,解答が分からなくなってしまったのだ。

 周囲の人間に,午前で20点足りずに不合格になった旨を告げると,「後は暗記だから次は絶対合格できる」と言われた。しかし,その暗記が問題だった。周囲は気軽に暗記と言うが,単に憶えるだけではなく,意味をしっかり理解しなければ合格までは難しいだろう。けれど,業務で使うのかどうかもよく分からない知識を,理解するだけの気力がなかなかわかなかった。

障害発生でやる気を出す

 そんな折,所属する部署でシステム障害が発生した。磁気ディスク読み込み時に,アクセスアームが物理的に折れてしまったのだという。それを聞いて,思わず声を出していた。「基本情報に出てくる用語ですね!」。学習した用語が職場で出てきたことで,自分の学んでいた知識が無駄ではなかったことが分かり,嬉しかったのだ。その時から,少しずつではあるが理解することが楽しくなっていった。

 しかし,勉強しようという意欲を持続させるのは難しい。テキストを開かない日が3日も続くと,勉強しなくてもいい気分になってしまう。

学習計画の遂行状況を先輩社員に報告

 そんな私を奮い立たせていたのは,自分で立てた学習計画表だった。正確に言うと,学習計画の遂行状況を先輩社員に報告することだ。

 私は意志が弱い人間である。自分で決めたプライベートな目標も,達成できないことの方が多い。そうした今までの反省を踏まえて,1週間という短い期間ごとに勉強目標を設定した。毎日の計画ではできなかった日を負担に感じてしまうし,1カ月の計画では長すぎて報告日まで何もしなくなってしまうためだ。そして,自分だけの計画にしてしまうと「計画通りに遂行できなくても構わない」と思ってしまうため,先輩社員への学習内容の報告を義務付けたのだ。

 先輩社員に報告するとなると,「何もやっていない」とは言いたくないし,理解もしていないことは報告できないので,素直に勉強するしかないのである。1週間何も勉強できなかった時は,日曜日の夜にまとめて1週間分の勉強をしたりもした。

 こうして勉強を続け,2006年10月15日の試験では合格。周囲からの祝福の言葉に,「頑張ってよかった」と心から思えた。同時に,「2006年4月に落ちてよかった」とも。

 基本情報技術者試験は,一見業務に関係ないように思える知識が多いうえ,取得していなくても業務は行える。そのため,もし4月に落ちていなければ,改めて勉強しようなどとは考えなかっただろう。

 改めて勉強して得た知識は,業務と関係するものも多い。それらは理解しようと考えなければ,決して身につかなかった知識である。資格に対する意識も変わった。資格のために勉強するのではなく,勉強するために資格を目指すのだ,と思えるようになったため,勉強が前よりも苦ではなくなった。「何のために資格を取得するのか」。そのことの意味を,改めて考えさせられた不合格であった。

試験概要:基本情報技術者試験
経済産業省が行っている情報処理技術者試験の1区分。情報技術全般に関する基礎的な知識・技能に関する試験。情報系大学生・専門学校生や,システム開発会社の新入社員が受験するケースが多い。試験は年2回,4月と10月の第3日曜に行われる。問題は,午前・午後ともに多肢選択式。合格率は15~20%。

水谷 修子(みずたに のぶこ)
2006年大学の心理学科を卒業後,損害保険のシステムを担当するIT会社にSEとして入社。プログラム開発,COBOL,データベースなどの研修の後,団体契約を扱う部署に配属される。システム保守(ホスト)の担当者となり現在に至る。主な使用言語はCOBOL。