実際にKVMスイッチを導入する際には,利用目的や環境によって最適解が違ってくる。KVMスイッチを使うユーザーが管理者なのか,エンドユーザーなのか,接続するサーバーは何台で,そのサーバーはどこにあるのか,といった点だ。以下ではKVMスイッチの基本的な動作の仕組みとともに,製品選びで押さえておきたいポイントを探っていこう。

 まず最初に考えたいのはKVMスイッチの伝送方式である。これは製品の性格を決める最大の要素であり,利用シーンによって向き不向きが分かれるからだ。KVMスイッチのデータ伝送方式には「アナログ」と「デジタル」があり,サーバーとコンソールの間の最大距離,キーボード/マウス操作と画面描画のレスポンスに違いがある。

高速だが制約多いアナログ型

 アナログ型のKVMスイッチはその名の通り,ディスプレイ出力であるアナログRGBの赤・緑・青の信号,およびキーボード/マウスのデジタル信号を伝送する技術が肝となる製品である(図3)。クライアント側,サーバー側のそれぞれにKVMスイッチを置き,KVMスイッチ間をカテゴリ5のUTPケーブルでつなぐ。伝送距離は最大約300メートルである。

図3●KVMスイッチの基本動作
図3●KVMスイッチの基本動作
信号を増幅・整形しながら長距離伝送する「アナログKVM」と,信号を符号化してIPネットワークで伝送する「デジタルKVM」の大きく2種類ある。アナログKVMの伝送距離が,信号を乱れなく伝送できる300m程度に限られるのに対し,デジタルKVMは距離の制約がない。  [画像のクリックで拡大表示]

 カテゴリ5のUTPケーブルを使うのは,安価で入手しやすいからだ。UTPは4対の信号線を持ち,この信号線の1対をキーボードとマウスのPS/2またはUSBに,3対をアナログRGBのそれぞれに分けて伝送する。信号の増幅や補正などを施しながらそのまま信号を伝えているだけなので,レスポンスが速いのが特徴である。半面,1本のUTPケーブルで伝送できるのは一組のKVM信号のみ。LANスイッチやルーターを介して信号を送ることはできない。このため同時に利用するユーザーの数だけ配線が必要になる。

 300メートルというのは,17型液晶ディスプレイの画面解像度1280×1024ドット(SXGA)の画面で,人の目で見て画質が明らかに劣化していると感じない距離。300メートル以上離れても全く使えなくなるというわけではない。解像度やUTPケーブルの品質などによって,300メートル未満でも画質が劣化したり,300メートルを超えても画質が劣化することなく延長できるケースがある。「同じビルやフロアなら,300mあれば9割のケースは対処できる」(ATENジャパン営業推進部の河上直氏)という。

距離無制限とはいえ反応は劣るデジタル型

 もう一つのデジタルKVMは,IPネットワークを介してデジタル信号を流す。デジタルKVMスイッチは主にサーバー側に設置する。クライアントは専用のクライアント・アプリケーションやWebブラウザ(Java)などを使いリモートのサーバー画面を操作する。アナログKVMと違って,伝送距離はネットワーク次第でいくらでも延ばせる。データ・センターなどの敷地内にとどまらず,広域でのサーバー一元管理が可能になる。前述のアキュラホームのような全国展開は,デジタルKVMスイッチが登場したからこそ可能になった。

 またデジタルKVMスイッチではIPネットワークを足回りに使うため,ネットワーク機器などのログから,サーバーの利用履歴を把握できるというセキュリティ面のメリットもある。

 難点はレスポンス。信号を符号化してIPネットワークでやり取りするので,アナログKVMスイッチに比べると,どうしてもレスポンスが遅くなる。またビデオ信号を圧縮して送るので,動画の表示には向かない。「色数を動的に落として反応速度を改善する」(日本ラリタン・コンピュータ ストラテジック・マーケティングの栗田正人担当部長)といった工夫をこらした製品はあるが,画面データの転送に伴う遅延の影響を完全になくすことはできない。レスポンスを重視するなら,伝送距離の許す限りアナログKVMを選択するべきだろう。

 表1に示すように,ほとんどのベンダーはアナログとデジタル両タイプの製品を提供している。

図1●主な企業向けリモート管理用KVMスイッチ
図1●主な企業向けリモート管理用KVMスイッチ  [画像のクリックで拡大表示]