私はCIO(最高情報責任者)とグローバルなシェアードサービスの責任者を兼務している。当社のシェアードサービスセンターは、データセンターやヘルプデスクを含む社内のIT(情報技術)関連だけでなく、財務のシェアードサービスも担う。世界中に数カ所あり、私が管理責任を負う。

 CIOがITのシェアードサービスの責任者を兼務するというのは米国企業でよくある話だが、最近、当社のように一部の米国企業のCIOはもっと広い業務範囲のシェアードサービスを担当するようになってきた。米P&Gが先駆けだろう。

人命にかかわる偽造防止にICタグを検討

スーザン・オデイ氏
スーザン・オデイ氏
ブリストル・マイヤーズ スクイブは医薬品とヘルスケア製品を扱うグローバルカンパニー。世界トップクラスのシェアを持つ抗癌剤など、医療用医薬品が主力事業。本社はニューヨーク市。2005年度の売上高は約155億ドルで世界第9位。日本トップの武田薬品工業の90億ドルを大きく上回る。また日本法人は1960年に設立

 私が当社の歴代CIOたちと大きく違うのは、財務のグローバルシェアードサービスを担当していること。さらにIT部門の組織体制を大きく見直してビジネスとITの結びつきを深めたことだ。

 ブリストル・マイヤーズ スクイブにはグローバルで5人のメジャーな「DIO(部門情報責任者)」という肩書きの社員がいる。研究担当DIOが1人、生産担当DIOが1人、セールスとマーケティングを担当するDIOが米国、欧州、アジア太平洋の3地域にそれぞれ1人ずついるのだ。

 このほかに、例えば日本担当などローカルなDIOが多数存在する。ローカルなDIOはメジャーなDIOに、メジャーなDIOは私にリポートする義務がある。私自身は最高経営会議のメンバーの1人であり、CEO(最高経営責任者)に助言することも頻繁にあるが、正式なリポートラインはCFO(最高財務責任者)だ。これはもともと会社へのIT導入が財務業務から始まったことに起因している。

 CIOとして3つの新技術に注目している。1つ目はワイヤレスブロードバンド通信技術。当社には世界各国にたくさんの営業担当者やMR(医療情報担当者)がいるが、ワイヤレスブロードバンド通信技術を活用すれば迅速かつ効果的に、彼らの情報共有や教育ができる。医師に様々な治療法や薬品についての最新情報を科学的根拠に基づいて完璧に伝えることができれば、すごく価値がある。

 2つ目は無線ICタグ。これは医薬品業界全体にとっても重要な技術だ。当社はまだ検証段階にあり広範囲に利用しているわけではないが、偽造品を防止するために商品管理に使う。医薬品のラベルに無線ICタグをプリントし、それで正規品かどうかが分かる。(世界中で急増している偽造医薬品は命にかかわるクリティカルな問題なので)無線ICタグだけでなくいろいろな技術を検証しているところだ。

 3つ目はSOA(サービス指向アーキテクチャー)。データ管理やアプリケーション開発の面で、実に革新的な技術だ。データやアプリケーションを何度も再利用するのに効果的な技術である。

 当社にとっては、営業や経理など様々な業務を効率化するためだけでなく、臨床データをいかに有効活用するかという点でもITが重要な鍵を握っている。臨床試験は、新薬の研究開発プロセスの中の非常に重要なパートであるのは明らか。ITが精緻せいちなデータの収集を助け、より短期間で臨床評価分析を可能にするからだ。

 これはIT部門のスタッフだけの話ではなく、ブリストル・マイヤーズ スクイブの全部門にいえることだが、当社の大半の社員は仕事へのモチベーションがすごく高い。それは「トゥ・エクステンド・アンド・エンハンス・ヒューマンライフ(豊かに長生きできる人生の実現)」という企業ミッションを掲げていることに起因する。私たちのミッションが何であるかを振り返ることが、仕事のモチベーションを高めることにつながる。

 この企業ミッションに照らし合わせると、当社がいま最優先で取り組むべき重要な仕事は何なのかが分かる。チームワークを強化してそのパフォーマンスを高める役割も果たす。そして一人ひとりが毎日精一杯仕事をしていけば、より多くの人命を救う医薬品作りに必ず役立つ。

 当社には様々な地域にある拠点に様々な価値観の人が様々な目的で入社してきている。それでも医薬品業界を目指した人の最初の動機は、患者を助けたいということだろう。特に当社の医薬品は、非常に深刻で慢性的な病に挑もうという製品が多いのでなおさらだ。

スーザン・オデイ氏 米ブリストル・マイヤーズ スクイブ CIO 兼 グローバルシェアードサービス担当副社長
1996年に米ブリストル・マイヤーズ スクイブの情報管理技術サービス部門に部長として入社。2005年からCIO。以前は1985年に入社した鉄道会社CSXのIT部門で運行計画プログラムなどを担当。米セントローレンス大学数学科を卒業後、米ウィリアム・アンド・マリー大学でMBAを取得。