「複数の遠隔拠点に設置されたサーバーを一元管理したい」,「多数のサーバーを1台のコンソールから操作したい」。そんなとき,あなたならどうするだろうか。手段はいろいろある。すぐに思い付くのはTelnetSSHリモート・デスクトップなどを使った遠隔管理だろう。サーバー・ベンダーの専用管理ツールもある。

 ただし,これらの方法はすべて,サーバーのOSがきちんと動いていることが前提となる。これに対して,OSに異常がある場合でも対処できるのがKVMスイッチである(図1)。キーボード(K),ビデオ・モニター(V),マウス(M)の配線をUTPケーブルなどを使って延長し,離れた場所からサーバーを操作できるようにする。

図1●KVMスイッチで遠隔操作できるサーバー管理機能
図1●KVMスイッチで遠隔操作できるサーバー管理機能
サーバーのリモート管理手法の中で最もカバー範囲が広い。

 KVMスイッチは,サーバーにKVMの信号を直接伝えるため,操作できる内容は通常通りKVMをサーバーに直に接続している場合と全く変わらない。BIOSレベルまで管理できる。KVMとサーバーとの距離を数百メートルまで延ばせるため,サーバーとコンソールの配置の自由度が高い。さらにKVMスイッチに複数のサーバーを接続し,手元のスイッチやキーボードで対象サーバーを切り替えながら集中管理することもできる。

 サーバーのOSが動作しない場合に備えるなら,KVMスイッチ以外にも,サービス・プロセッサや拡張カード,シリアル・コンソールリモート電源管理製品を使う手がある。それでも,その中でKVMスイッチは最もカバー範囲が広い。セキュリティや人員などの理由から集中管理を求める管理者にとって,KVMスイッチは欠かせないツールになりつつある。

基本は遠隔管理,シン・クラとしても使える

 KVMスイッチの活用方法は大別して三つある。(1)複数の拠点に散らばるサーバーの集中管理,(2)データ・センターにある多数のサーバーの一元管理,(3)シン・クライアント・システムのようなパソコンのリモート操作である。製品についての話をする前に,まずは具体的な利用シーンとして,実際にこうした場面でKVMスイッチを活用しているユーザーの例を見ておこう。

 ここで紹介するのは,埼玉県を中心に事業を展開してきた住宅メーカー,アキュラホームである。サーバー管理に頭を痛め,その解決策としてKVMスイッチを選んだユーザーだ。

 同社は2005年11月から,事業規模の拡大を目指し,全国に拠点を展開し始めた。最初の新拠点は関西地区だった。元々埼玉県の各拠点には,自社開発の顧客管理システムのデータを格納するサーバーを設置していた。新設する関西方面の拠点も例外ではなく,拠点ごとにサーバーを設置することになった。

 ここでアキュラホームは,管理者を増員するか,集中管理の枠組みを固めるか,決断を迫られた。埼玉県内で事業を展開していた当時は,障害があってもすぐに現場に駆けつけられたため,少ない人数でもなんとかなった。しかし関西拠点となるとそうはいかない。1台のサーバーのメンテナンスが1日がかりの仕事になってしまうばかりか,障害時には拠点の業務が滞る。増員も難しかった。人件費はもちろん,主にセキュリティ面での運用ポリシーの統一を図るための社員教育が欠かせないからだ。顧客データを扱うサーバーである以上,即席管理者というわけにはいかない。

 そこでKVMスイッチに目を付けた。本社の自席にいながらにして,全拠点のサーバーをリモートから管理できる。KVMスイッチの導入によって「営業部員のみ在籍する拠点のサーバーでも即座にBIOSレベルの管理が可能になった」(総務人事部システム課の八宮康氏)。関西に続き,東海,関東,山陽と,拠点を拡大するたびにKVMスイッチを増設していった(図2)。

図2●住宅メーカーであるアキュラホームのKVMスイッチ導入事例
図2●住宅メーカーであるアキュラホームのKVMスイッチ導入事例
業務の拡大に伴い,管理対象が拡大。KVMスイッチによるリモート管理システムを構築した。

 その後個人情報保護の観点から,顧客管理システムなどの基幹システムをデータ・センターに集約。2007年5月には東京・新宿に本社を移転した。この間,サーバーOSはリモート・デスクトップを利用できるWindows Server 2003に徐々にシフトし,たいていはリモート・デスクトップで管理できるようになった。ただ,BIOSレベルの管理が必要な場面は依然として残る。このため,KVMスイッチの利用は続けている。

 同社はさらに,本社にある銀行決済用のパソコンに対するリモート・アクセスの手段としてもKVMスイッチを活用している。決済権を持つ社長が出張した際でも,社外から本社の決済用パソコンを利用できる環境を整えた。利用イメージとしては,一般的なシン・クライアント・システムと同じである。