NGNのデータ転送の中心に位置するのがIPプラットフォームだ。インターネットなどのIP網と比べ,IPv6で広大なアドレス空間を保持する,QoSで帯域を確保できる,などの特徴を持つ。映像配信用にマルチキャストの技術も広く使われることになる。

 NGNのネットワークはトランスポート・ストラタムとサービス・ストラタムという二つの階層からできている。

 これを従来のサービス形態と比べてみよう。これまでネットワーク層はサービスごとに分離しており,それをSONET/SDHのトランスポートで統合していた。一方,NGNはトランスポートをIPで統合し,パケットと光の2レイヤーに集約させている。NGNの要となるのがIPなのである。

 IPプラットフォームはトランスポート・ストラタムの階層の中で,ルーター網として位置付けられる。また,ルーターは,ネットワーク境界に位置するエッジ・ルーターと,中継をつかさどるコア・ルーターとに分類される。

 IPプラットフォームの階層モデルを図1に示す。

図1●従来のサービス形態とNGNとの違い
図1●従来のサービス形態とNGNとの違い
NGNはIP層で統合してその上でさまざまなサービスを提供する。
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IPプラットフォームの各種機能

 言うまでもなくインターネットはIPをベースにしており,現在のインターネット接続事業者の網もIP網である。しかし,これらの網とNGNの間にはいくつかの大きな違いがある。以下ではそれらを見ていこう。

NGNの本命となるIPv6

 NGNはIPをベース・プロトコルとする統合網であり,IPはトランスポート機能の根幹をなす。よく知られているように,IPの利用は1970年代に米国国防省の研究・開発機関であるARPAが仕様を公開したことに端を発している。多くのUNIX系のOSで標準的に実装されていったことから研究・開発分野での利用が進んだ。1990年代に本格的に商用利用が始まり,今日の発展を迎えている。

 この間,IPパケットとしてずっと使われてきたのは32ビットでアドレスを表現するIPv4である。32ビットで表現できるアドレスの総数は約4億個。1990年代初頭には既にIPv4アドレスの枯渇の可能性が指摘され,次世代のIPの検討が開始された。94年にはIPv6を次世代IP技術とする合意が形成され,その検討が進められてきた。

 図2にIPv4とIPv6のヘッダー部分の構成を示す。IPv6ではアドレス長をIPv4の32ビットから128ビットに拡張することで,2の128乗個(=3.4億×1000兆×1000兆個)という膨大なアドレスを扱える。また,ヘッダー部分の付加情報が減ったことや,IPv4ではオプション部分が可変長であったのが,IPv6では固定長になっているなどシンプルな構成になっている。ヘッダー・チェックサムのフィールドをなくすことでルーターの処理を軽減するなどより,ハードウエア処理に適した構造である。パフォーマンス向上や実装コスト低下などのメリットが見込まれる。さらに,セキュリティ機能が必須などの特徴があり,IPv6こそ今後のNGNでの本命のプロトコルである。

図2●IPv4とIPv6のヘッダーの比較
図2●IPv4とIPv6のヘッダーの比較
一番大きな違いはアドレス部。32ビットから128ビットに拡張される。それ以外はIPv6の方がシンプルな構成になる。
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トラフィックの管理に向くMPLS

 一方,NGNにおいてIPのルーティングに使われることが多いのがMPLS(multiprotocol label switching)だ。MPLSは,IPパケットをシム・ヘッダーと呼ばれる識別子を持つMPLSフレームにカプセル化して転送する技術。その名が示すように実際には転送するパケットはIPに限定しない。レイヤー3のパケットであれば何でも構わない。

 転送のあて先はシム・ヘッダー内のラベルで表現され,IPドメインからMPLSドメインへの境界にあるルーターがあて先IPアドレスを基に最初のラベルを付与する。中継ルーターは受信したラベルから送信先とラベルに対するアクション(交換,除去)を決定する。図3にIPパケットをMPLSフレームにカプセル化し転送する例を示す。

図3●MPLSによるデータ転送の仕組み
図3●MPLSによるデータ転送の仕組み
MPLS網に入るときにパケットにラベルを付け,MPLS網内ではラベルの情報だけで転送する。IPのルーティングと比べてシンプルな処理になる。
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 あて先までのMPLSのパスはLSP(label switched path)と呼ばれる。MPLSはラベルの交換だけでフレームを中継できるため,網内で高速に処理できる。パケットがどのルーターを経由して転送されているかLSPで管理できるのも特徴だ。通常のIPルーティングでは困難な経路の制御が可能になる。通信の種類によってパスを変えるといったトラフィック・エンジニアリングに利用できる。LSP単位での冗長化や,高速切り替えなどによりサービスの信頼性を向上できる。こういった特徴によって,MPLSは通信事業者の広域網での利用に適している。

 また,MPLSのラベルを光信号の波長と対応させ,レイヤー3以外のデータも転送できるようにするのがGMPLS(generalized MPLS)である。以前の回で書いてきたように,光レイヤーの制御にGMPLSは期待されている。

映像配信に必須なIPマルチキャスト

 NGN上で実現が見込まれるサービスの一つにトリプルプレイがある。音声(IP電話),データ(インターネット),映像(放送やVoD)の三種を一つのネットワークで提供することだ。

 この中で映像配信を実現するための基礎技術がIPマルチキャストである。

 IPマルチキャストでは,ルーター間のデータ転送を最小限にしようとする。そのために,配信構造としてツリー構造を作り,同じデータを同じルーターに複数回送らずに済むようにする。ツリーを作るにはまず,ユーザーからルーターに対してIPv4ベースのIGMP(internet group management protocol)やIPv6ベースのMLD(multicast listener discovery)などのプロトコルで受信したい番組を報告する。すると,今度はルーターがPIM(protocol independent multicast)と呼ぶプロトコルを使って配信経路のツリーを構築する。このときPIM-SM(PIM-sparse mode)と呼ばれるモードが使われることが多い(図4)。図のランデブー・ポイントが共有型ツリーの中心となって,配信の分岐が行われる。PIM-SMでは,受信者は任意の送信者からのマルチキャスト・パケットを受信する。一方,受信者が送信者のアドレスを指定するものをPIM-SSM(PIM-source specific multicast)と呼ぶ。

図4●IPマルチキャストの例
図4●IPマルチキャストの例
PIM-SMモードを使って配信ツリーを構成した。同じ経路で同じデータを複数回送らなくて済むようにルーターで分岐して配信する。
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QoSやセキュリティ担うNACF/RACF

 NGNのネットワークにおいて,NACF(network attachment control functions)やRACF(resource admission control functions)がQoSやセキュリティの機能として搭載される。NACF/RACFからの制御を受け,ネットワークの境界(UNIやNNI)でのトランスポート制御や,セキュリティやQoSの制御を実行する機能がエッジ・ルーターに実装される。

加藤 正顕(かとう・まさあき)
富士通 ネットワークサービス事業本部 基幹ルータ事業部 プロジェクト部長
1985年,東京大学工学部電気工学科卒業。同年富士通入社。X.25パケット交換,ATM交換のソフトウエア開発を経て,2000年よりIPルーティング・ソフトウエア開発に従事。現在シスコシステムズとの共同開発を担当する。2003年10月より現職。