「言いたいことが言えない」,「本意ではないのに同意してしまう」,「相手のせいにして非難してしまう」---といったことはありませんか?私達は仕事の中で,自分の思っていることを,相手に口頭やメールで伝え合っています。その際にどのように自分の気持ちを伝えるのかはとても重要ですし,その言い方によって,相手の受け止め方もだいぶ変わります。

 仕事をスムーズに進めていくためには,相手の立場(顧客,上司,部下など)に関係なく,双方が円滑なコミュニケーションを取っていくことが必要です。お互いが思っていることを正直に伝え合える関係が出来ていれば,チーム・組織としての力も存分に発揮できるでしょうし,顧客や協力会社と長期的な良い関係を築くこともできます。

 そこで今回は,「アサーション(主張的)」という考えをベースに,自分も相手も双方ともに納得できる言い方に焦点を当てて紹介します。

■コミュニケーションは双方向のやりとり

 円滑なコミュニケーションのコツは,日常のちょっとしたやりとりから,顧客との打ち合わせまで,双方で相手に配慮したコミュニケーションを取ることです。

 これまでの連載で紹介してきた「聴く」こと(第2回第4回参照)をおろそかにすると,ほんの1つ2つのことを聞き違えたり聞き漏らしたりします。その結果,作業の手戻りが何回も発生したりドキュメントやプログラムなどを作成し直したりする羽目になります。そこからシステム上の大きな障害へ発展してしまう恐れがあることも容易に想像できます。

 しかしこのようなミス・コミュニケーションの原因は「聴く」ことだけの問題ではありません。図1にあるように,コミュニケーションは双方向のやりとりによって成立していますので,「話し方」にも気をつけなければいけません。

図1●コミュニケーションに必要なスキル
図1●コミュニケーションに必要なスキル

 その例としては,プレゼンテーション・スキルが代表的でしょう。顧客と接する機会の多いSEにとって,プレゼンテーション・スキルはもはや必須のスキルになりつつあります。

■「正しく分かりやすく伝える・・・それだけでいい?」

 では,プレゼンテーション・スキルやロジカルシンキングのスキルを駆使して理路整然と正しく伝えればそれでよいのでしょうか?そうではありません。人は感情の生き物です。頭で(論理的に)理解できても,心では(感情的には)受け入れられない,納得できないこともあります。

 これは誰しも経験のあることだと思います。人は自分の置かれている状況や立場,気持ちを理解して欲しいのです。相手が自分のことを理解・配慮してくれていると思えば,相手の言い分を受け入れやすくなるのです(図2)。

図2●頭と心は別「そうは言われても・・・・」
図2●頭と心は別「そうは言われても・・・・」

 正しく分かりやすく伝えることにプラスして,「相手のことを理解・配慮して,自分が感じたこと思ったことを正直に伝える」というコミュニケーションを取って円滑な人間関係を築きましょう。「持って生まれた性格だからそんなことできないよ」と思いがちですが,少し意識するだけでよいのです。

■3通りの伝え方「攻撃的~主張的~非主張的」

 ここで重要になるのがアサーションです。アサーションとは,対人関係において,双方が対等で平等な関係を目指すものための方法です。具体的には,相手の立場に配慮しながらも,かつ自分の権利や考えを直接表明するというものです。

 このアサーションでは,相手に伝えるときの表現方法が3通りあります。自分さえよければよいという「攻撃的(アグレッシブ)」,自分より相手を優先する「非主張的(ノンアサーティブ)」,そのどちらでもなく自分も相手も尊重する「主張的(アサーティブ)」です(表1)。

表1●3種類の伝え方
表1●3種類の伝え方

 自分の日頃の表現の仕方と照らし合わせてみましょう。常に攻撃的だったり,非主張的だったりする人もいます。また,相手との関係で表現の仕方が変わるという方もいることでしょう。部下・後輩にはつい攻撃的になってしまう,逆に顧客や上司,年上の部下に対しては非主張的になるという場合もあります。しかし,それでは良い人間関係,円滑なコミュニケーションを築くのは難しいのです。