パッケージ・ソフトを使ったシステム開発は,ゼロから作る手組みの開発に比べて必ず納期を短縮できる――。こんな幻想を抱くエンジニアがいまだにいる。だが,パッケージの導入には手組みの開発では必要のない様々な工数がかかる()。むしろ手組みの方が期間が短くなるケースも少なくない。その理由はいくつかある。

図●パッケージ導入で必要になる工数
図●パッケージ導入で必要になる工数
製品の調査やフィット&ギャップ分析に伴うステークホルダーの調整・説得,テスト,移行などに工数がかかる。このため,ERPによる再構築などでアドオン開発が多い場合,手組みよりも時間がかかることがある
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 まず,初めて使うパッケージ・ソフトの場合,標準機能やデータ構造,ソースコードなどを詳細に調査する必要がある。「必ず実データを使って検証しながら内部構造を把握しなければならない。それには多くの時間がかかる。この作業を怠ると,後で必ず問題になる」(カシオ計算機 業務開発部 プロジェクト推進グループ グループリーダー 安西仁氏)。

 二つ目は,要件定義の結果を基に,標準機能を使うか(フィット),アドオン開発をするか(ギャップ)を決定するフィット&ギャップ分析を実施する際に,利用部門や経営層など様々なステークホルダーの調整・説得に時間を要することだ。

 三つ目は,意外に忘れられがちな,パッケージのメインモジュールを安定稼働させるための工数である。具体的には,マスター・データや認証方法,パラメータなどを設定し,プロトタイプを作成する。

 フィット&ギャップ分析でアドオン開発が必要になれば,メインモジュール上でアドオン開発を進めなければならない。しかし,メインモジュールの中身が完全に分かっているわけではないので,意外に時間がかかる。これが工数を増大させる四つ目の要因だ。

 五つ目は,テスト工数。「すでにメインモジュールが出来上がっているためテスト工数が減る,と思ったら大間違い。アドオン開発でメインモジュールに影響が及んでいる可能性があるので,メインモジュールが持つ使わない機能まで含めてテストする必要がある」(電通国際情報サービス 製造システム事業部 PLM技術部 1グループ グループマネージャー 片桐伸彦氏)。

 最後は,移行に伴う工数である。移行データは,パッケージ・ソフトのデータ構造に合わせて大幅に変更する場合がほとんど。この作業に多くの時間を要するほか,移行データの作成時に「名寄せなどのデータ・クレンジングの作業が伴うことも多い」(片桐氏)。

 もちろん需要予測など,手組み開発が難しく標準機能をそのまま使える場合は,確実に納期は短縮できる。

 しかし,基幹システムのERPによる再構築など,アドオン開発が多い場合は,必ずしも手組みと比べて納期を短縮できるわけではない。