筆者は先日,AppleのiPhoneのリリースと,それがMicrosoft Exchange Serverにとって意味すること,という話題でコラムを書いた(「iPhoneとExchange」)。そのコラムは,まるでベジタリアンがステーキを焼く方法を人々に教えているような感じだった。なぜなら,筆者はそのとき,まだiPhoneを使ったことがなかったからだ。同コラムを提出した次の日,筆者はiPhoneを入手し,それ以来頻繁に使っている。これで筆者も,iPhoneとExchangeの連携について,実体験を基に話せるようになったわけだ。

 まずは,簡単な部分から片付けてしまおう。iPhoneのフィット感や外観,スクリーン,ユーザー・インタフェース(UI)の品質などについて,読者の皆様が耳にしたすべてのことは,間違いなく本当である。iPhoneは,華やかなUIと,筆者が今までに見た他のどんなデバイスのものよりも優れたスクリーンを備えた,美しいデバイスだ。しかし,それがどうしたというのだ? 結局のところ,「醜さは骨の髄にまで達する」のは事実だが,「美貌はただ皮一重」というのもまた事実なのである。今回の場合,「醜さ」という言葉は,iPhoneをExchangeと組み合わせて使う体験を表現するのにふさわしくない。「欠陥だらけ」という表現がぴったりだろう。

 iPhoneで「Exchange」アカウントを作成するとき,iPhoneはIMAPを使用する。だがこの設定のせいで,UIで余分な操作が必要になっている。例えば,iPhoneのインタフェースは,「Calendar(カレンダー)」「Contacts(連絡先)」「Tasks(タスク)」「Journal(ジャーナル)」などのフォルダ,さらに会議への招待やExchangeが生成するその他のメッセージなどを隠してしまう。

 意外かもしれないが,同デバイスで最も欠陥のない部分は,おそらくオンスクリーン・キーボードだろう。筆者はこれまで,物理的なキーボードを持たない携帯電話やPDAを避けてきた。そのため,iPhoneのキーボードには不満を感じるだろうと最初から覚悟していた。だが,鳴り物入りで登場した,Appleの入力ミスを訂正するソフトの出来が素晴らしいのだ。筆者はそれでも,Palmの素晴らしいTreoキーボードの触感を恋しく思うことがあるが,iPhoneのキーボードは十分使用に耐えうると感じている。

 最大の欠陥: アカウントとフォルダの間を移動するためのナビゲーション・インタフェースは,ひどい出来である。iPhoneのホーム・スクリーンから一度画面に触れると,アカウント選択ページに移動できる。そこで,アカウントを選択するためにもう一度画面に触れ,その後「Inbox」フォルダを選ぶためにもう一度画面に触れる。別のアカウントの「Inbox」に切り替えたい場合は,さらに4回画面に触れなければならない。フォルダ・ツリーの内部を移動するのも一苦労である。なぜなら,ツリーが絶えず展開された状態にあるからだ。フォルダを折り畳めないのである。つまり,「Work orders」という名のフォルダに移動したければ,「Blogs」の下にある数十個のRSSフィード・フォルダの中からスクロールして探す必要がある。

 最も深刻な欠陥: ユーザーがメッセージを削除しても,メッセージが削除されない。これは冗談ではない。何と,デフォルトの状態では,iPhoneはIMAPメッセージをデバイスから消去しないのである。これではまるで1985年の仕様である。消去を有効にすることもできるが,最小の削除間隔は24時間だ。その24時間の間,自分が使っているMicrosoft OutlookやMicrosoft Entourage,Pocket Outlook,その他の分散オーサリング/バージョニング(DAV),MAPI,Exchange ActiveSyncクライアントなどから,削除したはずのメッセージを見られるのである。それは,はっきり言って言語道断だ。“通常の”IMAPクライアントを使っている場合は,IMAPクライアントにメッセージを消去するよう命令を出して,無理やり削除することが可能だ。ただし,この回避策は,すでにIMAPを使用している人以外には役に立たないだろう。

 ほんの少しだけましな欠陥:デバイス上に表示させたいメッセージを選択するオプションが,非常に少ない。実を言うと,他のすべての事柄に関しても,オプションがほとんどない。これは,伝統的にユーザーがいじることのできるスイッチやボタンの数を制限することで有名なAppleらしい。こうしたアプローチは,魅力的なシンプルさを生み出すことがよくある。だが同様に,普通のユーザーに不満と怒りを感じさせることもよくあるのだ。

 iPhoneには,電子メール・クライアントのように優れた点もいくつかある。iPhoneのHTMLメッセージ・レンダリングは,素晴らしい。さらに,スクリーンが大きいおかげで,複雑なメッセージも容易に読むことができる。iPhoneは大量のストレージ・スペースを持っているため,通常のWindows Mobileよりもはるかに多くのメッセージを保存できる(同期コントロールがないことを考えると,ストレージが大きいのはうれしい)。Wi-Fiを使える機能は,素晴らしいボーナスだ(Wi-Fiに対応したWindows Mobileデバイスがあることは承知しているが,筆者はまだそうしたデバイスを所有したことがない)。AT&TのEDGEネットワークが非常に低速なことを考慮すると,この機能はとりわけ重要である。

 筆者がiPhoneを使った体験を総括すると,iPhoneはメディア・プレーヤーや携帯Web端末として使うと非常に楽しいが,電子メール・クライアントとしては,かろうじて使用に耐えうるレベルだ,ということになる。対照的に筆者のTreoは,電子メール・デバイスとしては最高だが,Webブラウザとしては,ほとんどの点で使用に耐えうる程度のレベルだ。したがって,少なくとも現時点で筆者にとっての解決策は,これら二つのデバイスを両方携帯することである。この組み合わせによって,筆者は機能と電力という点で最高の融合を得ることができるのだ。そして,「あなたは,バットマンよりも多くのガラクタをベルトに装着しているのか?」と人々に聞かれても,筆者は全く気にしない。

 筆者のiPhone体験についてもっと詳しく知りたい方は,筆者のブログを参照してほしい。