テクノロジー・リーダー向けサイト「Enterprise Platform」は、複数の雑誌やWebサイトの記者達によって作られている。会議室や電子メール上で常時行われている、担当記者と編集長のやり取りを公開していく。今回は,Enterprise Platformの実質的な編集責任者である高下義弘が執筆した。

 私は「Google Docs & Spreadsheets」を愛用している。身の回りのメモや記事のアイデア,思いついたことなどを,Docsの文書として書き込んでいる。ブラウザベースのアプリケーションとはいえ,操作性や使い勝手はほとんど問題ない。

 何よりも快適なのは,いつどこにいても,同じ文書に同じ使い勝手で書き込めることだ。私は現在,3台のPCを使っている。自宅のデスクトップPC,会社貸与のノートPC,会社のデスクトップPCである。どのPCを利用しても,ブラウザを立ち上げ,インターネットに接続さえすれば,直ちに同じ文書ファイルにアクセスできる。

 いったんこうした使い方に慣れてしまうと,USBメモリーを抜き差しして文書をやり取りしたり,電子メールで文書ファイルを自宅のPCに送ったり,といった今までの使い方が実に面倒であったことが分かる。

 本欄で先日公開した「レイ・オジー氏の取材から占うマイクロソフトの将来」の中で,Enterprise Platformの谷島編集長はグーグルのオフィス・ソフトについて懐疑的なことを述べていたが,玉置記者から皮肉られていたように,グーグルをろくに使ったこともない人の批判は説得力に欠けるというものである。

 もちろん私も,「企業がOffice製品を捨て去り,完全にGoogle Docs & Spreadsheetsに移行する」などと言い切るつもりは毛頭ない。私が所有する各PCにはテキスト・エディタやオフィス・ソフトがインストールしてある。最終的に雑誌やWebに掲載する原稿そのものはGoogle Docs & Spreadsheetsに書き込まず,テキスト・エディタやExcelを利用している。

 というわけで,仕事のすべての局面でGoogle Docs & Spreadsheetsが使えるとは思わないものの,メモレベルなら十分使えるというのが私の感想だ。

 ただ,メモとはいえ,それなりの情報である。もし,Googleのデータセンターから漏れたらどうするか,というセキュリティの危険性はある。ただ,実際の運用を想定すると,USBメモリーを紛失する危険性の方が高いのではないかと思う。

 今まで,USBメモリーを使って3台のPCの文書ファイルの同期をとっていた時は,USBメモリーを紛失しないように気を遣っていた。仕事,プライベート問わず肌身離さず持ち歩く鞄にUSBメモリーを必ず入れるようにして,しかも,もし鞄を盗まれた場合でも,すぐにはUSBメモリーが見つからないように隠しポケットの中に入れていた。

 ただ,隠しポケットにメモリーを出し入れするのはかなり面倒な作業である。こうしたこともあって,いったんGoogleを使い出すと,USBメモリーにもう戻る気がしない。このため,手元のUSBメモリーにはほとんどデータが入っていない,という不思議な状況になっている。

 しかし,Google Docs & Spreadsheetsには欠点がある。当たり前であるが,ネットワーク回線の調子が悪いときには,メモに一切アクセスできない。ある時,どうしても参照したいファイルがあったにもかかわらず,たまたま運悪くネットワークの調子が悪かったのかついにアクセスできず,ほとほと参った。

 さすがにこの後は,PCのハードディスクにファイルのバックアップを取ることを心がけている。この時気がついたのだが,Googleのサーバーに置いたファイルが「正」で,手元のハードディスクにあるファイルが「副」なのだ。なんとも不思議な時代になったものである。