IPマルチキャスト方式で地上デジタル放送を再送信する「IP同時再送信」の実現に向けて,サービスの審査基準が暫定的に固まった。情報通信審議会が2007年8月2日に公表した「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」の第4次中間答申の中で,参考資料として放送事業者らが組織する「地上デジタル放送補完再送信審査会」がまとめたガイドラインの暫定版が公開されたのである。この審査会は2006年8月に公開された前回の第3次中間答申を受けて設立され,IP再送信を実施したい有線役務利用放送事業者と地上放送事業者の間で再送信同意を結ぶために,IP再送信サービスが満たすべき技術基準や運用規定などを検討している。当初は地上デジタル放送の県域免許と合致する地域限定性や,地上デジタル放送と同等のコンテンツ保護機能など,基本的な要件の素案を作成した。

 今回のガイドラインの暫定版では,こうした基本的な条件に加えて,総務省が2006年度と2007年度に実施したIP再送信実証実験の結果を基にした技術条件や運用条件などにを盛り込んだ。例えば技術条件では,電波による受信と比べた映像や音声,データ放送などの遅延はシステム全体で2.5秒以下とすることや,映像や音声に対する字幕放送の表示タイミングの遅延を電波による受信と比べて±3フレーム以下とすることなどの数値が提示された。これらに加えて,同地域の地上デジタル放送と同数のチャンネルを提供すること,また視聴しながら別番組を録画することを想定して,サービス1契約当たり2チャンネル以上の視聴が可能であることといった,利用環境を想定した条件も示した。

 運用面では,ユーザーごとに異なる受信端末の性能の違いなどによってサービスの体感品質(QoE)が異なる問題について,視聴者コールセンターを設置するなどの方法によって説明責任を果たすことも明記した。このようにガイドラインの暫定版では,IP再送信サービスの実現に向けて放送事業者側でも具体的な審査基準が固まってきていることが示された。審査会は今秋にもガイドラインの最終案を公表し,意見募集を行う意向である。

 一方,ガイドラインの作成と並行して,情通審の第4次中間答申では,IP同時再送信サービスを提供する有線役務利用事業者に対する注文も付記した。具体的には,IP同時再送信は地上波テレビ放送をデジタル化するための補完手段として行うものであるとし,都市部だけで多くのユーザーを獲得し,地上デジタル放送が視聴しにくい条件不利地域でIP再送信サービスがほとんど提供されないといった事態は避けるべきだとした。このため,IP同時再送信サービスを提供する予定の事業者に対して,提供地域と提供開始時期の計画を2008年初頭までに公表することを求めた。

 IP再送信サービスは,当初はNTT東西地域会社が2007年度中に実用化するNGN(次世代ネットワーク)を活用しての提供が想定されている。つまり今回の第4次中間答申ではNTT東西に対しても,都市部だけでなく地上デジタル放送の受信が困難な地域でもNGNを敷設する計画を早い段階で公表することを求めているようだ。