SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)市場のリーダーはいったい誰になるのだろう。これまでIT市場を牽引してきたITベンダーなのか、中小企業の顧客を多く抱えるシステム販売会社なのか、パッケージベンダーなのか、あるいは新興勢力なのか。

 そこに新たに参戦を表明したのが通信会社のKDDIだ。SaaSプラットフォームベンダーとして名乗りを上げ、来春までにサービスメニューを整えて本格参入する。実はKDDIは、2年前からITサービス市場参入のチャンスを模索していた。ネットワーク上にアプリケーションを乗せて提供する方法は、回線事業を伸ばす有力方法の一つになるからだ。月額料金というスタイルも、通信会社のビジネスにフィットする。だが、「本業ではないし、そこには強いプレーヤーが存在する」(大貫祐輔ソリューション統轄本部戦略企画部次長)ため、断念したという経緯があった。

 しかしネットワークのスピードが速くなり、かつ安く手に入る環境が整ったことで、「参入を決断した」(桑原康明ソリューション事業統轄本部戦略企画部長)と言う。当初は、有力なITベンダーとパートナーを組もうとしていた。何度も交渉を重ねたが、そのITベンダーは顧客の囲い込みを考えていたため、話し合いは進展しなかったという。「考え方が違うし、お互いのメリットも見えてこなかった」(大貫氏)。KDDIはオープンなプラットフォームにして、可能な限り多くのアプリケーションソフトベンダーを取り込みたいからだ。

 そうした中で、ソフトウエア+サービスという新しい販売スタイルでハイブリッドモデル戦略を打ち出すマイクロソフトとは、考えが一致する部分があった。マイクロソフトはグーグルなどにITサービスの新しい提供形態を仕掛けられており、その対策を模索していたのである。

 このためKDDIはマイクロソフトと包括契約。マイクロソフトの通信事業者向けの統合サービス基盤「CSF(Connected Services Framework)」を活用し、SaaSプラットフォームを構築することにした。英国の通信会社BTもCSFを採用しているという。さらにKDDIは今年2月に日本ユニシス子会社のユニアデックスとも包括契約を交わし、次世代ネットワーク時代に対応するため、WATとLANをワンストップで提供する仕組みにした。これもSaaSをにらんだものだ。

 KDDIはまず従業員300人未満の企業をターゲットとする。「メールやグループウエアなどのコミュニケーションツールが入っていないところから売り込む」(大貫氏)ためだ。しかも、「これまでリーチできていなかった中小企業にSaaSでネットワークを売ることができる」(同)と言う。最初はコミュニケーション系のアプリケーションからサービスを提供するが、こうしたアプリケーションの料金は基本的に無償に近いものになると見られている。

 今後の市場開拓には、中小企業に必要な会計や人事、営業支援などアプリケーションのメニューをどの程度まで用意できるかが重要になる。だが、ここが大きな課題でもある。多くのアプリケーションソフトベンダーはライセンス収入を基盤にしており、容易にSaaS型に切り替えられるわけではない。しかも KDDIのSaaSプラットフォーム仕様に合わせる必要がある。KDDIも複数のアプリケーションの連携やレガシー資産の活用を考えておく必要があるだろう。

 販売方法にも難題がある。KDDIは基本的には代理店経由の販売を検討しているので、まず中小企業に強いシステム販売会社と組めるかどうかが問われる。だがシステム販売会社はサーバーとアプリケーションを組み合わせたビジネスモデルを基本としているため、SaaSのようなサービス形態になったときに代理店がどこまで収益を確保できるか懸念がある。

 こうした問題をクリアすることが、KDDIにとっては目標の100万ユーザー獲得の条件になる。そのとき通信会社はSaaSプラットフォーム市場で、ITベンダーの手強い相手になる。