顧客の課題を解決するシステムを提供しなければならないソリューションプロバイダにとって、顧客の本音の抽出は最低限の条件である。顧客に胸襟を開いてもらわなければならないが、打ち解けることができない営業担当者が少なくない。今回は顧客と意思疎通を円滑に進めるコツを紹介する。
先日、何気なくテレビを見ていると、ある食品メーカーのテレビ広告を頻繁に目にしました。初めのうちは大して気にもかけなかったのですが、何度か目にするうちにその食品メーカーの製品に親近感を覚えてしまいました。
馴染みがないものに出会うと、違和感を覚えたり、拒否反応を示したりすることが少なくありませんが、何度も見ているうちに少しずつ違和感や拒否反応が薄れ、気が付かないうちに好意的になってしまうことがあります。これを心理学では「単純接触効果」と呼びます。テレビを見ているうちに私がある食品メーカーの製品に好意的になってしまったのも単純接触効果によるものだと考えてよいでしょう。
テレビ広告に限らず、“接触”する機会が多ければ多いほどお客様が好意的な感情を抱く確率は高くなります。前回、名刺とメールを使って自分のセールスポイントや会社の特徴を伝える話をしましたが、お客様と接触するためのツールは名刺とメールだけではありません。ありとあらゆるものを駆使してメッセージをお客様に伝えることができます。
図1をご覧ください。メッセージを伝えるために私が使っているツールと、それぞれのツールでどのようなメッセージを伝えているかを記載したものです。伝えられる情報量などツールごとに特性があるので、ツールによってお客様に伝えるメッセージは変えていますが、新たなメッセージを受け取るたびに、お客様は私に対するイメージを膨らませ、最後は信頼感を抱いてくださるようになるのではないでしょうか。前回は名刺とメールの使い方について話をしたので、今回はそれら以外の方法について紹介します。
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図1●顧客から信頼を得るには様々なメッセージを送ることが大切 [画像のクリックで拡大表示] |
まずはプライベートの自分をさらけ出す
図2の画面は、私の個人的な情報をお客様に知らせるためにPowerPointで作成したものです。少しでも私のありのままの姿をお客様に理解していただきたいと思い、あまり親しくないお客様に送信するメールに添付しています。一時期、メールに添付するのではなく、ホームページを個人で立ち上げて公開していたこともあります。私の顔を思い出していただけるように顔写真をはめ込んでいるほか、家庭での最近の出来事、趣味・嗜好、好きな言葉なども記載しています。
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図2●メールに添付している自己紹介の資料 [画像のクリックで拡大表示] |
なぜ個人情報を公開する必要があるのか、と疑問を持たれる営業担当者は少なくないでしょう。私が家庭での出来事までさらけ出すのは、お客様に安心していただき、信頼を得ようと思えば、営業担当者のほうが率先して情報を包み隠さず開示しなければならないと考えているからです。
ERP(統合基幹業務システム)やSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)などに代表されるように最近の情報システムは、その会社の生命線を握るような重要情報を扱います。課題を含め、現在の状況についてお客様から包み隠さず説明していただかないと、お客様の役に立てる情報システムを提供できません。お客様から隠し立てなくお話しいただこうと思えば、営業担当者のほうが先に自分をさらけ出すのが礼儀ではないでしょうか。
不思議なもので、こちらが個人的な話をすると、ほとんどのお客様が胸襟を開いてくれます。時には、初対面だとは思えないほど話が弾み、お客様の課題が手に取るように分かるので、目に見えない形で営業活動に役立っています。
個人的な情報を公開することによってお客様と人間関係を築く一方で、お客様が「システムの開発を串戸のところに任せよう」と思えるようなメッセージの提供にも私は力を入れています。プレゼンテーションはもちろん、プレゼンテーションの前に何度か実施しているお客様との打ち合わせでも、絶えずメッセージを送るように心掛けています。