電話の着信音が鳴り「はい,○○です」と電話に出ると,この声はすぐに電話をかけた人に届きます。ところが電話に出た瞬間にかけた側の人が何かを話していても,その声は電話を受けた人には聞こえません。

 「それはないでしょ? だって実際に相手の声が聞こえなくて困ったことなんてない」と思われるかもしれません。でも,本当なんです。

 電話の回線には“向き” (方向)があります。一つの回線を両者が共有しているのではなく,電話網の中ではかけた側→出る側(順方向)と,出る側→かけた側(逆方向)の回線がそれぞれ独立してつながる仕組みになっています。この二つの回線それぞれがつながる時間には,わずかなズレがあるために,冒頭のような現象が起こるのです。

 こちらが電話に出た瞬間は,まず自分から相手に向かう道が開通します(逆方向)。厳密には,このときにまだ順方向は開通していません。順方向が開通するのは,電話をかけた側の交換機がこちらが電話に出たことを知ってからです。

 発信者と着信者の間は,通常何台かの交換機を経由してつなぎます。電話に出た人の側の交換機は,発信側の交換機に「応答したよ」(Answer Message)と呼ぶ信号を通知します。これが届くと,発信者から着信者向きの道がつながり,両方向で話ができるようになるのです。といっても,この信号が伝わるのは一瞬です。通常,電話が通じて最初に発声するのは着側の人なので,問題になることはありません。

 なおIP電話でも,加入電話と同じように,まず着信側から発信側方向の道がつながってから,その後で発信側から着信側方向の道がつながります。IP電話と加入電話では仕組みは違いますが,片方向ずつつながるという点は同じです。

電話はなぜつながるのか   紹介した内容については,書籍『電話はなぜつながるのか』(日経BP社)で詳しく解説しています。ぜひ,そちらもご覧ください。