生産性(1人当たり経常利益)の全体平均は、単純平均ベースで185万円(対象158社)で堅調に推移している。前回(対象162社)の平均は190万円だったが、この数値は不正取引で今年2月に上場廃止となったアイ・エックス・アイの2519万円という“異常値”を含んだものだ。これを除けば前回の全体平均は176万円だった。つまりITサービス業界全体の生産性は、前回より5.1%増加したことになる。


●生産性ランキング(1位~30位)
黒文字の社名は連結決算の企業,青文字の社名は単独決算のみの企業
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 ただしランキング結果をよく見ると、生産性を大きく上げた企業とそうでない企業とに二極化が進んでいることが分かる。金融業界を中心としたシステム需要の高まりで、“盛夏”を謳歌しているのはシステムインテグレータである。

 特にシステム構築プロジェクトのプライムを握ることのできる大手や準大手クラスのSIerの躍進が目立つ。一方、IT商材の中間流通を担うディストリビュータや販社系は生産性を落としている。

ディストリビュータや販社は苦戦

 生産性ランキング1位は、コールセンター事業などを手掛けるもしもしホットラインである。通信業向けの大型スポット案件を受注したことで、担当者の稼働率が向上した。同社に続く上位にはSIerが名を連ねた。第2位が松下電工インフォメーションシステムズ。生産性は986万円(前回951万円)だった。

 続く3位には野村総合研究所(NRI)がつけた。同社は証券・保険会社向けのシステム開発・運用サービスが好調。これらの案件を、中国のITベンダーに外注するなどして売上原価を抑制している。収益性ランキングで躍進したNTTデータは、生産性が379万円(前回197万円)となり、42位から15位に順位を上げた。

 このほか上位30社で目立つのは大塚商会。独自開発した顧客情報管理・営業支援システム(SPR)を武器に、生産性341万円で21位(前回は287万円で29位)につけた。ヤマト運輸のシステム子会社であるヤマトシステム開発は、生産性340万円(前回252万円)で34位から22位に。さらに住商情報システムが生産性296万円で27位(前回37位)に浮上した。

 一方、ディストリビュータや販社系の生産性は、SIerの結果とは対照的。競争激化でパソコンやサーバーなどハードウエア本体価格が下落し、“ハコ売り”ビジネスの生産性が落ちた。特にパソコンにでは、マイクロソフトの最新OS「Windows Vista」の発売が今年1月だったことによる買い控えの影響などで市場が低迷した。

 実際にディストリビュータ最大手であるダイワボウ情報システムの生産性は253万円。前回の297万円より44万円減少し、順位も34位に後退した。菱洋エレクトロは11位と昨年と順位は変わらなかったものの、前回の460万円に比べ38万円減の422万円だった。兼松エレクトロニクスは前回(410万円)より32万円減少し378万円。順位を13位から17位に落としている。

 例外はCAE(コンピュータ支援によるエンジニアリング)のパッケージ販売を手掛けるサイバネットシステムである。4位に位置する同社は単なるパッケージ販売にとどまらず、ユーザー企業のニーズを製品に迅速に反映するといった付加価値を基に、高い生産性を維持する。

平均年収はさほど上がっていない

 ただしエンジニア不足で生産性が上がっているということは、現場担当者の業務負担が重くなっている可能性が高い。果たして、その分社員は報われているのかどうか。

 その手がかかりとして、8/24公開の「平均年収ランキング・トップ50」を見ていただきたい。売上高100億円以上の上場企業のうち110社の平均年収は633.9万円である。昨年(対象109社)の平均625.6万円に比べ1.3%増という結果だ。生産性5.1%増という割に、「今ひとつ」という印象 を拭えない。

●生産性ランキング(31位以降)
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【注目企業】

“横流し”では高い生産性は維持できない
サイバネットシステム
田中 邦明 社長

 当社は制御系や機械系、光学系、エレクトロニクス系といった4分野に対し、欧米製のCAEパッケージを販売している。ソフトの自社開発はしない方針で、競争力の高いパッケージの販売に注力している。だがそれだけでは1人当たり経常利益686万円という生産性を実現することはできな い。
 当社のコンサルタントは、ユーザー企業がパッケージに求める機能や品質に関する要求を吸い上げ、それらをパッケージの開発元である欧米のパッケージメー カーにきっちりとフィードバックしている。開発元とユーザー企業の間に入って、顧客にとって最適なCAEソリューションを提供していることで値引きが一切 なく高い生産性を維持しているのだ。我々は単なる卸ではない。
 欧米の開発元は、我々が提供する情報を基に製品を迅速にブラッシュアップしてくれる。長年付き合っていることもあるが、当社が優良なユーザー企業にソ リューションを提供していることも大きい。我々は業界最大手のメーカーや官公庁、大学など国内2500社の顧客を抱えている。開発元は日本のユーザー企業 が求める機能や品質をクリアすれば、世界で競争力の高い製品を開発できるとの考えがあり、我々の意見を重視してくれるわけだ。
 業界最大手の顧客と付き合っていると、その顧客の取引先やライバル企業が当社のソリューションに注目し、導入してくれる。それにより、営業コストを抑えることができているわけだ。こうした点も高い生産性の維持につながっている。
 今後、CAEソリューションをこれまで付き合いのない設計担当者にも使ってもらえるよう提案していく。ソリューションの利用対象を広げることで、高い生産性を維持しながら、現在の売上高190億円を2010年3月期には400億円に伸ばす計画だ。(談)