NGNのアクセス網とコアのルーター網をつなぐのが光コア・メトロ網だ。光のレベルで処理することで大容量の柔軟なスイッチングが可能になる。入出力の波長を制御する技術が進むと同時にGMPLSで経路の制御もできるようになってきた。オンデマンドのサービスに向けて各種技術整備が進む。

 NGNのトランスポート・ストラタムにおいてルーター網とアクセス網の中間に位置するのが光コア・メトロ網だ。一般に地域間の情報転送を行うコア網と地域内のメトロ網の2段階で構成され,全体でバックボーン・ネットワークを構築する(図1)。

図1●ルーター網とアクセス網をつなぐ光コア・メトロ網
図1●ルーター網とアクセス網をつなぐ光コア・メトロ網
地域のメトロ網とそれらを結ぶコア網からなる。
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 光コア・メトロ網のネットワークに要求される主な条件は(1)大容量化,(2)経済性,(3)運用の簡易化,(4)堅牢性,である。

 (1)の大容量化ではブロードバンドの継続的な拡大に対応するとともに柔軟な拡張性が必要になる。トラフィックの増加は爆発的であり今後もその予測は非常に難しい。運用中のサービスの連続性に影響を与えることなく,できるだけ制約のない拡張性を維持できる柔軟なアーキテクチャが求められる。

 (2)の経済性では機器設備と運用の両面でのコストが課題。特に鍵になるのは運用面である。トラフィックの増加やサービスの多様化に伴い,動的にネットワークの構成を変更したりトラフィックの設定を変える機会は確実に増えていくからだ。一方,機器については個々の機器での最適化に加え,機器レベルでの統合が求められる。

 (3)の運用の簡易化ではシンプルな網設計と統合ネットワーク管理による運用者への負担軽減が必要になる。ネットワークはリングからマルチリング,メッシュへと発展していく。ますます複雑化する網設備設計の簡易化が求められる。ルーター網・アクセス網との一元化ネットワーク管理,マルチベンダーの一元化管理が課題になる。

 (4)の堅牢性ではミッション・クリティカルなサービスを保証する安全E安心が必要だ。ハイレベルの通信品質保証,障害・災害など異常時の迅速な復旧が課題になる。

コアを支えるDWDM技術

 コア・メトロ網はWDM(wavelength division multiplexing),MSPP(multiservice provisioning platform),パケット・トランスポートといったシステムで構成される。その中で前述の要求条件に応えてネットワークを支えるのがDWDM(dense WDM)である。

 DWDMは各信号に異なる光波長を割り当てて,これらを多重して1本の光ファイバで一括伝送する技術。大容量化を実現する手段として有力である。多重する波長の数が多いほど伝送効率,すなわちネットワークの経済性が高まる。急激なトラフィック増に波長を増設することで容易に対応できることや,光レイヤーでの処理のため信号速度やプロトコル依存度が小さいことなどメリットは多岐にわたる。

カスタマイズが可能になり採用加速

 DWDMは再構成可能な光挿入分岐多重化(ROADM=re-configurable optical add drop multiplexing)機能の実現により光メトロ網への導入が加速した。ROADMは光信号のまま任意の波長信号を自由に挿入・分岐する。このため簡単かつ柔軟にネットワークの構成を変更できる(図2)。

図2●ROADM機能が付いたDWDMの構成
図2●ROADM機能が付いたDWDMの構成
任意の波長をWDMに挿入したり,WDMから分岐できる。これによって柔軟な波長管理が可能になる。

 もともとDWDMはレーザー,光ファイバ増幅器,光フィルタなどの技術革新により,1990年代後半から大容量・長距離伝送を目的として光コア網に導入されたが,光メトロ網への適用はリング・ネットワークへの適合性の課題と経済性の点から,局地的なファイバ不足解消など限定された領域にとどまっていた。

 光メトロ網では,通信拠点ごとにトラフィックを増減したり,通信拠点の追加・削除が比較的頻繁に行われる。初期のDWDMシステムではトラフィックの設定変更時に作業者が各通信拠点(一般的には数十km間隔で配置)に出向き,現場での設定変更に加え機器の増設,ファイバ再接続を必要とした。このため,運用コストの増大と複雑化が大きな課題となっていた。

 ROADMを構成するキー・テクノロジとして例えば波長選択スイッチ(WSS=wavelength selective switch)や全帯域波長可変レーザー(FBTL=full band tunable laser)などがある。これらを組み合わせることにより,波長をポートに割り当てたり,複数経路へのスイッチ切替を波長単位で自在に行うことができる。マルチリングやメッシュ網の構築が容易になる。

 さらに,遠隔地から作業できるため,動的なネットワーク構成変更や帯域増減が可能となり,運用コストの削減と動的な運用が実現できる。またGMPLS機能や網設備設計ツールとの連携により,性能保証と帯域管理の両面からルートの最適化や障害発生時の迅速な復旧を行うなど,ネットワークの運用性,堅牢性の向上も期待できる。

複数デバイスをまとめるWSS

 ROADMの構成要素を細かく見ていこう。

 ROADM装置において,WDM信号から任意波長の光信号を挿入・分岐する機能や任意波長の光信号を選択して任意の出力ポートへ出力する1対多接続機能を担うのがWSSである(図3)。WDMのスイッチには(1)各波長の光信号へ分波,(2)各波長の光信号の経路切り換え,(3)各波長の光信号の合波の三つの機能が必要であり,以前はこれを別々のデバイスで実現していた。WSSはこれらを一つのデバイスにまとめたものだ。

図3●WSSの動作
図3●WSSの動作
波長ごとに出力するポートを設定できる。

 WSSは分光デバイス,波長単位で光信号を切り換え可能な光スイッチング・デバイス,光ファイバと各種光デバイスを結合する光学系で構成される。これらを高精度な実装技術を用いて1デバイス化している。分光デバイスとしてはAWG(arrayed waveguide grating)や回折格子を,光スイッチング・デバイスとしてはMEMS(micro electro mechanical system)ミラーや液晶デバイスを用いる構成が提案されている。図4には一例として分光デバイスとして回折格子,また,光スイッチング・デバイスとしてMEMSミラーを用いた1入力ポート3出力ポートWSSの内部構成および動作を説明している。

図4●WSSの構成
図4●WSSの構成
回折格子を使って分光し,MEMSミラーの角度を変えることで波長ごとに出力ポートを変える。
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 入力ポートから入力されたWDM信号はコリメータ,レンズを経て平行線ビームとなり,回折格子によって各波長へ分離される。分離された各波長の光信号はレンズを経て各波長に対して一つずつ準備されたMEMSミラーへ到達し,ミラー角度の制御により波長ごとに出力するポートを決定する。その後,各波長の光信号はレンズを経て回折格子によって各出力ポートごとに光信号が合波され,所望の出力ポートより出力される。このとき,各波長の光信号が接続される出力ポートおよび出力ポートごとに接続可能な波長数に制限はなく,ミリ秒オーダーでトラフィックを柔軟に振り分けられる。

 またWSSの特徴として入力と出力を逆方向にしても動作する。任意の波長を任意の入出力ポートに接続可能な光スイッチ機能が実現できるわけだ。さらに,平坦な透過帯域という優れたフィルタ特性を持ち,現在の主流である10Gビット/秒の光信号に加えて,将来の40Gビット/秒の光信号の伝送にも対応できる。

丸橋 大介(まるはし・だいすけ)
富士通 フォトニクス事業本部プロジェクト統括部長
1982年,早稲田大学理工学部電子通信学科卒業。同年富士通入社。SONET/SDHシステム,WDMシステムの開発に従事。2006年6月より現職(北米ビジネス担当)。