オフショアリングは、システム子会社にも大きな影響を与える。親会社からすると、今までシステム子会社に委託していた業務でさえ、委託するかもしれないからだ。しかし他社に提供できない優位性を築けば、システム子会社にとって発展のチャンスにもなる。

 前回は、革新的な視点で見たシステム子会社の生き残り策として、M&A(企業の合併・買収)をどうやって今後の事業拡大のチャンスとして生かすかについて述べた。今回はもう1つの生き残り策として、オフショアリングを論ずる。オフショアリングは、システム子会社の経営に大きな影響を与える存在になっているからだ。

 なお今回は連載の最終回なので、最後に親会社のシステム部門やシステム子会社の経営幹部の方々からよく尋ねられる質問と、それに対する見解、さらにはシステム子会社が今後生き残る道について、総括を加えてみる。

アウトソーシングと手段は異なるが目的は同じ

 オフショアリングは、物価や賃金が安く労働力が豊富な地域で特定の業務を委託・実行するもので、アウトソーシングとは別である。アウトソーシングとは、企業内で業務を行うか、外へ委託するかといった選択肢であるのに対して、オフショアリングは、自社でやるか他社へ委託するかは別にして、自国で行うか他国で行うかの選択肢である。図1にそれぞれの選定基準と分類を示す。

図1●アウトソーシングとオフショアリングの違い
図1●アウトソーシングとオフショアリングの違い
アウトソーシングは企業内で業務を行うか、外へ委託するかといった選択肢になり、オフショアリングは自国で行うか他国で行うかの選択肢になる。それぞれの手段は異なるが、目的は同じである

 アウトソーシングを選定するときは、戦略インパクトや財務インパクト、さらには事業インパクトや事業リスク、実現可能性の視点で見たときに業務プロセスを外部へ委託できるか、といった基準で見る。

 例えば戦略インパクトの場合は、競合優位性や知的財産、現在および将来の戦略との関連があるかどうかで判断する。さらに財務インパクトでは、労働コストやスケールメリット、建築費、材料費などの財務コストで判断する。

 事業インパクトは、品質改善や信頼性、新技術の適用や柔軟性、複雑性の削減などで判断する。事業リスクでは、戦略や評判、ベンダー/国、オペレーションの各リスクで見ていく。実現可能性については、複数ベンダーの存在、ベンダー市場の成熟度と安定性、法務リスク、プロセスの成熟度などで判断する。こうした判断に基づいて、それぞれの業務をアウトソーシングできるかどうかを総合的に判断する。

インパクトは大きいがコントロールは難しい

 一方、オフショアリングの選定となると、戦略における優位性の構築や追加的な財務インパクト、追加的な事業インパクト、追加的な事業リスク、実現可能性があるかという基準で見る。

 戦略における優位性の構築とは、オフショアリングによってグローバル市場への参入が可能になるか、競合優位性の構築に寄与するか、現在の競合優位性の維持に寄与するか、知的財産が劇的に向上するか、知的財産における優位性が強化されるか、という視点で判断する。追加的なインパクトやリスクはアウトソーシングの場合の判断基準と同様である。

 これらアウトソーシングとオフショアリングは手段としては別であるが、目的から見ると直線上にある。インパクトの大きい順から並べると、オフショアリングのアウトソーシング、オフショアリングの自前、オンショアのアウトソーシング、オンショアの自前となるだろう。

 これをコントロールの容易さで並べると、反対になる。言い換えると、自社から地理や所属で離れれば離れるほど、インパクトは大きくなるがコントロールが難しくなる、ということである。オフショアリングを推進する主な要因としては、コスト削減、資源の確保、顧客のグローバル化への対応、特殊な技術やノウハウの吸収、本業への集中、時差を利用した業務のスピードアップなどがある。

 図2に当初の年間業務コスト、外部への委託費、実際にかかる年間のコストなどの概念図を示した。

図2●オフショアリングのコスト構造
図2●オフショアリングのコスト構造
経済性といった視点で評価すると、一時的なコストがオフショアリングの価値を左右することが分かるため、コストが多くかかるような業種や体質などでは、当初期待していたような効果が出ない危険性がある
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 こうした経済性の評価を行うと、一時的なコストがオフショアリングの経済価値を左右することが分かる。つまり一時的なコストが多くかかるような業種、組織文化、経営陣の体質などでは、当初期待していたような効果が出ない危険性があるということである。