上田 尊江
TransAction Holdings, LLC.
CEO  Founding Partner


 半年ほど前、使用していたパソコンの調子が悪くなった。たまたま立ち寄ったオフィス・デポで支払いをしている間、レジ横に置いてあった広告を手に取ると、一面に大きくソニーのノートパソコンの特売が告知されていた。価格は699ドル、信じられないほど安い。広告を家に持って帰り、じっくりスペックを検討する。全く申し分のない商品だ。早速、1台購入することにした。

 再び、オフィス・デポに行き、目当ての商品を探す。無事発見し、「まだ残っていた」と喜び勇んでレジに持っていったところ、会計係から「849ドルです」と、広告掲載価格より150ドル高い金額を請求された。849ドルでもかなりのお買い得なのだが、699ドルという数字が頭に入っているため、黙っているべきではないと思い、「値段が間違っていませんか」と聞いてみた。すると会計係は言った。「150ドル分は、メール・イン・リベートになっています」。

 メール・イン・リベート? 何それ?

 とっさには何のことか見当が付かず、買い物に付き合ってくれていた主人に説明を求めなければならなかった。メール・イン・リベートとは、直訳すると「郵送による払い戻し」となる。対象商品をディスカウント前の価格(今回の場合は849ドル)で購入し、レシートのコピーや商品に付随しているクーポン、さらに必要事項を記載した用紙を、指定の住所へ郵送する。するとディスカウント金額分(今回の場合は150ドル)のチェック(小切手)が郵送されてくるという仕組みだ。

 なぜこのように面倒なことをするのか、この場で割り引けばいいのに、と首をひねったが、最終的には699ドルで買えるわけだと自分を納得させ、レジで849ドルを支払って、ノートパソコンを購入した。パソコン自体は期待通りに動いており、本原稿もそのノートパソコンを使って執筆している。

 購入したパソコンのレシートには、リベートを受け取るためにやらなければいけないことが記載されていた。帰りの車中でよく読んでみると、リベート・プログラムへの応募期限は購買してから数日後になっており、非常に短い猶予しか与えられてないことが分かった。家に着いてすぐ、メール・イン・リベートの手続きをした。渡された書類に必要事項を記入、レシートを同封して郵送した。念のためにレシートはコピーしておいた。

 送ってしまってから、配達記録をとるべきだったかと若干後悔しながらも、「まあ大丈夫だろう」とつぶやき、再度レシートのコピーに目を通した。「リベートを発送するのに90日程度必要となります。ご了承ください」と書いてある。購買後、数日以内に応募しろと言っておきながら、チェックの発送に3カ月もかかるとは、と疑問を感じたものの、期限内に手続きをしたから大丈夫、と思い直した。

 ところが!

 150ドルを受け取ろうとする私に、驚くような試練が待っていた。

 パソコン購入から3カ月以上たったある日、備品を購入するためにオフィスディポへ立ち寄ったとき、リベートの申し込みをしたにもかかわらず、未だにチェックが送られてこないことに気が付いた。日々の仕事に追い立てられ、メール・イン・リベートのことなどすっかり忘れていたのだ。

 家に帰るやいなや、3カ月前のレシートを探し出し、細かい字で書かれた説明文を読み直した。「90日以上経ってもリベートを受け取っていない場合には、以下のWebサイトまたはカスタマーサービスへお問い合わせください」とあり、URLと電話番号が記載されていた。早速、Webサイトへアクセスし、必要事項を入力してみたが、リベート申し込み記録を発見できない。そこで主人に頼み、カスタマーサービスへ電話をしてもらった。なかなかつながらなかったが、私と違って忍耐強い主人はオペレーターが出るまでじっと待ち続けてくれた。ようやくつながったものの、今度は、我々二人を驚愕させる言葉を聞くことになった。

 「お客様からの郵便は確かに届いているようですが、システムにきちんと入力されていなかったようです。これから登録するのでお待ち下さい」。

 電話を切った直後は、「3カ月も何をしていたの?信じられない」と呆れたが、ちょっと考えてみると、リベート・プログラムを展開している小売業の意図が分かってきた。要するに、小売業は消費者にリベートを送りたくないのだ。小売業は、消費者に対し、メール・イン・リベートへの申し込みをしないで欲しい、と期待しており、わざわざ面倒な手続きにしている。それにもめげず、リベートに申し込んできた客に対しては、その事実をすっかり忘れて欲しいと願っている。アメリカに来てから、ついつい口に出してしまう、あの一言がまたしても頭に浮かんでしまった。
「これって詐欺じゃないの?」

 そこで少し調べてみることにした。コンサルタントをやっていたこともあり、調べ物は好きなほうだ。唐突な話だが、小学生の頃、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きだった。小林少年になったつもりで、インターネットを調べ、いくつかの小売業の店頭に行ってみたりした。