ソフトバンクがエリア限定で,光ファイバとメタル線を組み合わせたFTTRサービスを開始していたことが,日経コミュニケーションの取材で明らかになった。同社がFTTRの実証実験を開始したのは2006年。「2007年こそ商用化に踏み切るのでは」という観測は多いが,公式にはまだ商用サービスを開始したとは発表していない。

東海の一部エリアで販売テスト

 しかし東海エリアのごく一部では,量販店などでFTTRの販売用のチラシを配布しており,「Yahoo!BB 光 タイプS」という名称で実際に料金をとってサービス提供している。チラシには「FTTR」という文字はないが,「NTT局舎からお客様宅付近の電柱まで光ファイバを敷設し,電柱からは既設の電話回線を使用する」,「お客様宅へ新たに回線を引き込む工事は必要ない」などと説明されるサービスは,まさにFTTRそのもの(写真A)。2007年2月あたりから,ひっそりとエリア限定で販売を始めていたようだ。

写真A●ソフトバンクが東海エリアの家電量販店で配布していたFTTRサービスのチラシの一部
写真A●ソフトバンクが東海エリアの家電量販店で配布していたFTTRサービスのチラシの一部

 チラシではFTTRについて,「最大速度が下り100Mビット/秒,上り50Mビット/秒」とうたっている。ネット接続に加え,IP電話サービスである「BBフォン」,IP放送サービスの「BBTV」をそろえたトリプルプレイも提供している。

 ソフトバンクはこのサービスについて,「複数のエリアでテスト・マーケティングを実施しているのは事実。ただ,FTTRの商用化時期はまだ決まっていない」と説明する。実際に料金を取っているため,商用サービスに見えるが,あくまでも今後のマーケティング戦略を練るためのテスト販売という位置付けとしている。

FTTRの本格展開にはまだ課題?

 ソフトバンクが商用化に慎重な姿勢を見せるのは,FTTRを大々的に販売するにはまだ課題があるからのようだ。というのも,現状のソフトバンクのFTTRのサービス仕様などを見る限りでは,提供料金やコストなどの課題が浮かび上がる。

 まず,ADSLとFTTHの間に位置付けられるスペックを持つFTTRは,普通に考えれば料金設定も,ADSLとFTTHの間くらいに落ち着くはず。だが,ADSLとFTTHに料金の差は現状ではほとんどない。こうした状況で設定されたFTTRの料金水準が,どこまでユーザーにお得感を与える訴求力を持つのか,まだ判断しにくい。

 しかもFTTRは,宅内への引き込み部分の工事が必要ないとはいえ,伝送装置を電柱上に設置する作業にそれなりのコストがかかるという。あるFTTH事業者は,「FTTRは,電柱上の機器が雨や風に四六時中さらされるため,保守に手間やコストがかかる。長い目で見れば,引き込み工事をしてもFTTHの方がトータル・コストは安くなるのではないか」と話す。

 こうしたFTTRの課題を見透かしているのか,NTT東西は今のところ静観中。FTTHのPONのバラ貸しは徹底して拒否するが,FTTRへの取り組みには協力的だ。「FTTRは我々のFTTHサービスに支障がなく,電柱上を貸すためのコストをソフトバンクが払ってくれるなら問題ない」(NTT東日本),「FTTRに関しては,コスト負担してもらえるならソフトバンクからの要望に応じるようにしている」(NTT西日本)。FTTRへの対抗手段も,特に用意しておく必要はないだろうと考えているようだ。

 ソフトバンクのFTTR商用化には,FTTH市場の競争促進の面で,総務省内からも歓迎の声が上がっている。これらの課題を乗り越え,本格的な商用サービスの開始に期待がかかる。