「共用型の光ファイバを複数事業者でシェアして,7分岐まで埋められれば,1ユーザー当たり約1600円の接続料に抑えられる」。ソフトバンクの弓削専務取締役は,このような試算を披露する(図1)。つまり,1ユーザー当たりの光ファイバ接続料を2000円以下にできる計算だ。これが実現すれば,FTTHサービスの料金水準は,ぐんと下がる。

図1●PONシステムの現状の貸し出し形態と,1分岐単位でのバラ貸しの場合の違い
図1●PONシステムの現状の貸し出し形態と,1分岐単位でのバラ貸しの場合の違い
設備を貸す側のNTT東西はバラ貸しを拒否しており,設備を借りる 側のKDDIやソフトバンクなどは1分岐単位での貸し出しを要求している。図はOLTが最大1Gビット/秒対応の場合。
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 連載第1回でも説明したが,NTT東西はアクセス系の光ファイバを1心で貸す専有型と,1心の光ファイバを8分岐させる共用型の,2パターンの光ファイバ貸し出し形態を用意している。この共用型の貸し出し形態変更を巡る議論も,FTTHの市場価格に大きな影響を与える。「より借りやすくなれば,接続料コストを下げられる」とする他事業者の主張が,どこまで総務省に受け入れられるのかが焦点だ。

8分岐単位の貸し出しをバラ貸しに

 共用型は,「PON」と呼ばれるシステムを導入することで実現している。NTT東西は,自社の一般消費者向けのFTTHサービスで使っているPONシステムを,他事業者にも貸し出すメニューを用意。この方式を「シェアドアクセス」と呼んでいる。

 ただし現行のPONは,1心の光ファイバを電柱上のスプリッタで8分岐させており,貸し出す場合は最小でも8分岐一括。この貸し出し形態を,ユーザーの獲得状況に合わせて柔軟に借りられるように,8分岐一括ではなく,バラ貸しの1分岐単位に変えてほしいという要望が,一部の通信事業者から出ているのだ。

 要望の背景には,あるエリアで8分岐分のPONシステムを一括で借りても,1事業者のユーザーだけで8分岐分を埋めるのは難しいという事情がある。NTT東西以外で大規模に設備を持ってFTTHサービスを展開するケイ・オプティコムでさえ,「PONの8分岐をすべて埋めるのは大変。おそらく現時点では,我々も8分岐分をすべて使っているエリアはないのではないか」(林チームマネージャー)と話す。

 仮に分岐方式でNTT東西から設備を借り,結局1ユーザーしか獲得できなかった場合は,サービス料金と設備を借りるコストが逆ザヤになるリスクがある。

 ソフトバンクの試算では,この場合,1ユーザー当たり約6000円の接続料コストになるという。光ファイバを1心で借りる場合よりもコストが高くなる計算だ。

先送りされた貸し出し形態変更の議論

 PONシステムの貸し出し形態の是非は古くからある議論で,決して新しくはない。FTTH市場でNTT東西のシェアが高まる中で,KDDIやソフトバンクなどの事業者がFTTH市場の競争促進のためこの主張を何度も繰り返してきた。「8分岐単位というPONの貸し出し方式が,FTTH市場における競争促進の最大の障壁となっている」と指摘する有識者も少なくない。

 最近でも,総務省の接続委員会で1分岐貸しについて本格的な議論があった。しかし結局,2007年3月の答申では,1分岐貸しをNTT東西に義務付けることを見送った。

 ただしNTT東西が将来,1分岐貸しを実現する機能を追加できる可能性があることを考慮。PONの1分岐貸しの是非はNGN(次世代ネットワーク)の接続ルールの検討会で再度議論することとし,実質的には議論を先送りした。

 ソフトバンクは,机上の試算にとどまらず,KDDIなどと連携し,実際にPONシステムを複数事業者でシェアして,技術的に問題がないかどうかの実証実験に踏み切る計画。NTT東日本から設備を借り,分岐したファイバを集約する装置「OLT」と各通信事業者のバックボーンの間に振り分け装置を置いて,複数事業者によるPONシステムの共用を実験することになりそうだ。

 詳細は明らかでないが,ソフトバンクはKDDIのほか,イー・アクセスやアッカ・ネットワークスなどにも実証実験への参加を呼びかけているもよう。PONの8分岐を複数事業者で共用し,うまく通信ができるのかどうか,負荷がかかっても複数通信事業者が共用で通信できるのかどうか,などを検証する予定だ。ソフトバンクはこれら実証実験のデータを集め,今後の総務省の研究会など,あらゆる場での説得材料として活用する方針である。