総務省は,NTT東西の光ファイバ接続料の算定について,「今後の需要を考えれば,これまでと同様に将来原価方式を採用するのが適当」とする。NTTグループは,「2010年に光ファイバ3000万契約を獲得する」という目標を掲げている。この目標を達成するということは,今後数年で大きな光ファイバ需要が生まれることとイコールだ。ここで将来のコスト削減と需要増を加味する将来原価方式で計算すれば,光ファイバ接続料は現在よりも下げられる可能性が高くなるわけだ。

 NTTは,総務省が主張する将来原価方式の採用について,その条件を「飲む」とも「飲まない」とも言わない。,その一方でヒストリカル方式の採用による実績コストの回収の望みを捨てていない。「ヒストリカル方式で算定するなら,接続料は値上げとなる可能性が高い。今のところは,上げるとも下げるとも言えないが,コスト回収が前提なので,ヒストリカル方式が今後も絶対にダメとは思わない」(NTT西日本の田中浩之経営企画部担当部長)と説明する。

耐用年数が延びれば数百円の下げ効果?

図1●光ファイバと電話線(メタル)の法定耐用年数
図1●光ファイバと電話線(メタル)の法定耐用年数

 光ファイバの耐用年数の変更は,「仮に耐用年数を延ばして減価償却期間が長くなれば,見かけ上のコストは確実に下がる」(ケイ・オプティコムの林克哉総合経営本部チームマネージャー)と,将来原価方式の採用よりも決定的な値下げ要因となるという指摘がある。現在の光ファイバの法定耐用年数は10年だが,「光ファイバのスペックを考えれば,メタルの電話線より耐用年数が短いというのはあり得ない」という指摘は多い(図1)。光ファイバは法定耐用年数ではなく,実際に使える経済的耐用年数を使って減価償却すればよいのではないかという意見が,NTT以外の通信事業者や有識者から相次いでいる。

 そこで浮上してきたのが,「光ファイバの経済的耐用年数は何年が適正なのか」という議論。その指標として,最近注目を集めたのが,「光ファイバの経済的耐用年数は架空の場合で15.1年」という数字だ(写真1)。

写真1●LRICモデル研究会の報告書に明記された,光ファイバの経済的耐用年数の記述
写真1●LRICモデル研究会の報告書に明記された,光ファイバの経済的耐用年数の記述

 この値は総務省の「長期増分費用モデル研究会(LRICモデル研究会)」が統計的手法を使って算出し,4月の報告書に明記したもの。光ファイバの経済的耐用年数は15.1年とする数字について,総務省側は「あくまでLRICモデル用の数字だが,これまでの算出値とは異なりデータの実績も増えて,非常に裏付けのある数字」(谷脇課長)と見る。

NTTと電力系は耐用年数延長に反対

 仮に10年から15年に光ファイバの耐用年数を延ばして減価償却期間を長くすると,接続料にはどの程度の影響が出てくるのか。NTT東西は「そのような試算はしていないため分からない」とする。

 ただ,「光ファイバのコストの半分程度が減価償却費」(NTT西日本の田中担当部長)であるため,減価償却期間が1.5倍に延びることのコスト削減効果は小さくない。光ファイバ設備を大規模に持つ電力系事業者のある幹部は,「様々な前提条件が絡むので試算は難しいが,耐用年数が15年に延びれば,数百円程度の接続料の値下げ効果があるのではないか」という意見を述べている。

 光ファイバの耐用年数については,NTT東西側にも言い分がある。「FTTHの需要が伸びてきたため,ここ数年で光ファイバを大量に引いた部分がある。実態の年数が把握できる状況ではない」(NTT東西)という。

 光ファイバ設備を持ってサービス展開している電力系通信事業者も,「アクセス系の光ファイバは,ユーザーの引越しといった移設作業などで,張り替え作業が少なくない」として,光ファイバの耐用年数を延ばすことには反対の立場だ。ただし電力系通信事業者は,NTT東西の光ファイバ接続料が下がると,FTTHの市場価格の水準まで下がりかねないという事情を抱えている。

 一方で,ソフトバンクテレコム(以下,ソフトバンク)は,「光ファイバの耐用年数は15年でも短い。海外では20年以上使えるという実績が公開されており,我々の光ファイバも20年程度使っているものがある」(弓削哲也専務取締役CTO兼企画本部長)と主張。減価償却期間をさらに長くして,もっと接続料を下げるべきとしている。設備を持つ事業者と,設備を借りる側の事業者では意見に大きな隔たりがある。

 接続料が大幅に下がることになれば,光ファイバを借りる側のKDDIやソフトバンクなどに大きなメリットをもたらす。その代わりにNTT東西には「引けば引くほど損になる」という思いを募らせ,光ファイバ敷設の意欲を減衰させることになりかねない。光ファイバ設備を自ら構築している電力系通信事業者にも大きな打撃を与える。接続料が劇的に変わることの影響は,今後の日本のFTTHサービスの競争や事業の在り方にまで波及する。

「2007年度中に決着を」とNTT西日本

 現時点ではNTT東西が総務省に接続料の申請をしていないため,具体的にどのような議論が展開されるのかは分からない。ただ,ある有識者はこう予測する。「あまり値下げすると,総務省としての次の政策の“決め球”がなくなる。大きく下げられる可能性があっても今回は,値下げ余地を残せる程度の下げにとどめるのではないか」。ある電力会社の幹部も,「現状で約5000円の光ファイバ接続料の1割引に当たる,500円程度の値下げが総務省としての落としどころではないか」と見ている。

 NTT西日本は「2007年度中に決着を付けるため,1月~2月には申請できるように準備する」(田中担当部長)と話す(図2)。大方の予想通り接続料が下がり,FTTHの料金水準も下がるのか──。次の「共用型編」では,さらに大幅な料金引き下げをもたらす議論を紹介する。

図2●NTT東西の光ファイバ接続料改定に向けた今後のスケジュール
図2●NTT東西の光ファイバ接続料改定に向けた今後のスケジュール
2008年度からの適用を開始するには,2007年1月ころには申請が必要となる。NTT東西はその時期の申請に間に合うように準備するという。  [画像のクリックで拡大表示]