今から10年前,筆者は自宅オフィスで電子ニューズレターを作成し,UNIXベースのリスト・サーバーを通して数千人の読者に配信していた。その際,記事をテキスト電子メールと互換性のあるフォーマットに変換するために,Microsoft Wordのマクロを作った。そのときは気づかなかったが,同アプリケーションのツールバーボタンに配置されたこの非常に原始的で単純なマクロは,Microsoftが現在「Office Business Application (OBA)」と呼ぶものにつながる,数多くの先駆的な機能の一つだったのだ。今日,OBAは大きな市場になっている。ユーザーにとって,OBAは最も生産性の高いソフトウエア・ソリューションの一つである。

 OBAは,Word,Outlook,ExcelといったMicrosoft Officeアプリケーションの内部で実行されるアプリケーションのことだ。この意味において,OfficeはWindowsやMicrosoft .NETのように,開発者がソリューション作成に使用するプラットフォームになったのである。実際のところ,Java,Linux,Apacheといったライバルのプラットフォームについていろいろと言われているが,市場の圧倒的な規模を考えると,「Officeは,Windowsに次いで地球上で2番目に多く使われているプラットフォームだ」という主張には非常に説得力がある。Microsoftによると,世界中で約500万人が毎日Officeアプリケーションを使用するそうだ。

 Microsoftは,Officeスイートの大部分を,旧来の「Visual Basic for Applications (VBA)」から洗練された.NETベースの開発フレームワークに移すことによって,OBAという呼び名を創造した。そしてOffice 2007の新しい「Ribbon」ユーザー・インタフェースへのアクセスを提供して,OBAを新たなレベルに押し上げたのである。これにより,.NET指向の開発者がOffice開発に移行し,既存のコードを再使用して,ビジネス・プロセスやビジネス・インテリジェンス(BI)のソリューションを含めたバックエンド・サーバーにアクセスすることが簡単になった。ユーザーである知識労働者が慣れ親しんだアプリケーションに,移行できるのである。このことは非常に重要である。なぜなら,現状では,BIやERPのソリューションについてくるカスタム・アプリケーションを使いこなすにはトレーニングが必要で,それには高い費用が必要になることもあるからだ。

 Microsoftは,デンバーで来週開催される年次のパートナー・カンファレンスで,OBAを前面に押し出す予定だ(MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は,5月に開かれた「Software 2007」カンファレンスでも,OBAについて熱心に語った)。筆者は先週,MicrosoftのPlatform Strategy Groupのプログラム・マネージャを務めるDaz Wilkin氏と会って,OBAの分野における同社の最近の取り組みについて話し合った。Microsoftはこのところ,開発者の学習,作業用のリファレンスOBAの作成に取り組んでおり,今後も多くの参照OBAがリリースする予定であるという。つい先月,同社は最新のリファレンスOBA「Consumer Engagement Reference Architecture for Health Plans」を出荷した。これらは「誰にでもわかる初心者向けアプリケーション」ではなく,完全な機能を備えたソリューションなのである。

 「現在,多くに企業に分裂が発生している」とWilkin氏は筆者に語った。「知識労働者のほとんどは,LOB,ERP,BIのシステムを日常的に使用しているわけではないのだ。その理由は明白である。それらのシステムは,使いこなすのもデータを取得するのも難しいうえに,Excelのスプレッドシートで,それらのデータの古いバージョンにアクセスしたほうが楽なことが多いからだ。企業は,自分たちのビジネス・プロセスをCRMやERPに保存する。だがその場合でも,LOBアプリケーションの外側には多くのヒューマン・ワークフローが存在するのだ。私たちはOBAでそれらのプロセスを自動化できる」。

 もっと広い視野から見ると,OBAは,Microsoftが掲げる「ソフトウエア+サービス」というビジョンの申し子のようなものだ。同社の公式的な見解によると,「Microsoftはもはやソフトウエア・ベンダーではなく,『ソフトウエア+サービス』会社である」。OBAは,Officeスイートにあるような広く普及したエンドユーザー・アプリケーションとバックエンド・サービスの間にある“壁”を叩き壊すことができる「ソフトウエア+サービス」の優れた例といえるだろう。リスクを避ける傾向が最も強い企業にとっても,それは同じだ。さらにMicrosoftは,サードパーティの邪魔になるようなことは,あまりしていないのである。同社は,自社製品であるSQL ServerやDynamicsのためにOBAを生み出した。しかし,それ以外で同社がしていることといえば,同プラットフォームの宣伝と説明だけなのである。