ひょっとすると,2008年度以降のFTTH料金が大きく変動するかもしれない。FTTHサービスの小売り料金の“原価”に相当する光ファイバ接続料を巡る議論が,今年度中に決着がつくからだ。現状では,総務省とNTT東西地域会社の見解は乖離(かいり)しており,激しい論戦が予想される。接続料が変化すれば,FTTHサービスの料金水準も連動するため,利用するユーザーにとって影響は大きい。

 NTT東西の主張は「現在の光ファイバ接続料は大幅な赤字」というもの。NTT東西は,赤字分を何とか回収したいと話しており,接続料値上げの可能性さえ否定はしない。こうした中,「日本全国のほとんどのエリアでNTT東西以下のFTTHサービスを選べなくなっている現状では,NTTに値上げされかねない」という懸念を持つ企業ユーザーも出始めている。

 これに対して総務省は,明言はしないものの,FTTHの料金水準を上昇させることになる接続料値上げの展開を避けたい意向である。

 FTTH料金を巡る議論は,現状では二つ。アクセス系の光ファイバをNTT東西が他事業者に貸し出す際に,1心を1ユーザーで使う「専有型」と,1心を分岐させる「共用型」のどちらにも,値下げの可能性があるのだ。

 専有型で展開されるのは,2008年度以降に適用する新しい接続料を,光ファイバの耐用年数を延ばすことなどで値下げできるという議論。共用型における検討項目は,現状は8分岐単位で貸している光ファイバの貸し出し方式を変えて,1分岐単位のバラ貸しに変更。1ユーザー当たりの仕入れ値を下げるという方法の是非だ。

 まだ本格的な議論は始まっていないが,通信事業者や有識者など関係者への取材では,新しい光ファイバ接続料は現行よりも500円程度値下げされて約4500円,分岐システムの貸し出し方式の変更では,実質的に1ユーザー当たり2000円以下の接続料に下げられる可能性がある──という見方が浮上した。以下で,その実現可能性を追った。

専有型は「500円値下げ」が落としどころ?

 まずFTTH料金の今後を占ううえで重要なのは,NTT東西の1心当たりの光ファイバ接続料の動向だ。2008年度から適用する新しい接続料算定を巡り,総務省とNTT東西の攻防が始まろうとしている。接続料はNTTの申請を総務省が認可するもので,NTT東西だけの都合では決められないのだ。

 規制がかけられたNTT東西の光ファイバは,総務省から認可を受けた接続料を公定レートとして公開しなければならない。そのうえで,自社のFTTHサービスで使うのと同じ条件で,他事業者にも貸し出す義務を課されている。こうした規制があるため,他事業者は自前で光ファイバを敷設しなくても,NTT東西から光ファイバを借りて自社ブランドのFTTHサービスを提供できるようになっている。

 現在のNTT東西の光ファイバ接続料は,1心当たり5074円。実際にかかったコストを基に接続料を算定するヒストリカル方式ではなく,数年間分の需要とコストを予測しコストを平準化する将来原価方式ではじき出された。

 具体的にはNTT東西は,2001年の時点でその後7年間の光ファイバ需要とコストを予測し,7年間の平均値として「5074円」という接続料を算出した。あえて7年間という長い算定期間を設定し,理屈を付けて割安な料金を導いたという経緯がある。

 2007年度は現行接続料の適用期間の最終年度にあたる。2008年度から適用する,新たな接続料を算定しなければならない時期なのだ(図1)。NTT東西から光ファイバを借りて事業を展開する通信事業者が少なくない現状では,2008年度以降の光ファイバ接続料が上がるか下がるかは,FTTHの市場価格全体に大きな影響を及ぼす。

図1●NTT東西の光ファイバ接続料が「1心当たり5074円」となった仕組み
図1●NTT東西の光ファイバ接続料が「1心当たり5074円」となった仕組み
料金を下げるため2001年に,将来の需要増とコスト削減を見込んで5074円という接続料を算出した。しかしその後,実績コストと予測コストが大幅にかい離。NTTは差額を回収したいと主張している。

ぶつかる「値下げ」と「値上げ」の思惑

 では新たな接続料はどうなるのか。申請するNTT東西と,認可する総務省の思惑は大きく食い違っており,接続料が決まるまでの議論には曲折がありそうだ。

 総務省は,「これから本格的な普及期を迎えるFTTHの“小売り料金”が,上がる方向で議論が進むのは好ましくない」(谷脇康彦 総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課長)という見解を示す。立場上,接続料についての直接的な発言は控えており,あくまで「FTTHの小売り料金」に対してコメントしている。しかし実質的には,NTT東西の接続料を値下げしたい意思を示唆するものだろう。

写真1●NTTの光ファイバ設備
写真1●NTTの光ファイバ設備

 片やNTT東西は,現行の5074円という接続料さえ,「2001年時点の予測と大きく食い違い,大幅な赤字」と,以前から言い続けている。2005年度の実績でも光ファイバ1心当たりのコストは約1万1000円と,接続料の2倍近くかかっている。「なんとかこの取り漏らし分を回収したい」と主張する。

 差額回収のためには,普通に考えれば値上げが妥当な手段だ。ただし,NTT東西ともに「値上げしたい」とははっきり言わず,「回収できる方法を前提に,いろいろ考えている」と繰り返すにとどまる。少なくとも接続料の値下げは避けたいというのが本音だろう。

光ファイバ接続料を“裸”にする総務省の論点

 光ファイバの接続料が改定される2008年度を控えた腹の探り合いが続いている中で,接続料算定に先手を打ったのは総務省である。2006年秋に策定した新たな競争政策「新競争促進プログラム2010」の中で,光ファイバ接続料の在り方に言及。NTT東西の光ファイバ接続料を認可する際の課題を議論するため,具体的に明記したのだ。

 その内容はNTT東西にとって極めて厳しく,接続料のコスト構造に容赦なくメスを入れて新しい接続料の妥当性を検証するものになっている。

 掲げられている論点は,値上げ要素と値下げ要素が混在した6項目(図2)。NTTが認可を得るためにこれらの検討項目をすべてクリアすると,「NTT東西は光ファイバ接続料を下げざるを得なくなるだろう」という見方が広まっている。

図1●総務省が「新競争促進プログラム2010」で提示した光ファイバの接続料についての検討課題とその影響
図1●総務省が「新競争促進プログラム2010」で提示した光ファイバの接続料についての検討課題とその影響
影響度の大きさは,関係者への取材を基に本誌が推測。赤く強調したのは影響度が大きいもの。
[画像のクリックで拡大表示]

 NTT東西はこれらの論点をすんなりと受け入れるつもりはなく,徹底抗戦の構えを見せている。特に光ファイバ接続料に大きな値下げ作用をもたらす「将来原価方式の採用」と,「光ファイバの適正な耐用年数の精査」の2点ついては,申請までに理論武装するもようだ。