中堅・中小ユーザーへの提案では、ビジネス特性や企業規模、業態や予算のほか、特に相手のIT化の成熟度を考慮した提案が必要だ。中堅・中小ユーザーはIT化の遅れを取り戻そうと、過大な内容を求めてくる場合も多いが、そうした要望が出てきても段階的にアプローチしていくなど、実現可能なシステムを提案すべきである。

 筆者は長年、ソリューションプロバイダの営業として、新規顧客獲得のためのマーケティング、提案活動および既存顧客向けのサポート活動を行ってきた。日々、中堅・中小企業がソリューションプロバイダに何を求め、どういう提案やソリューションであれば興味を持ってくれるかについて考え続けてきた。そうした活動の中から、今回は2社の事例を交えながら、中堅・中小ユーザーにアプローチする上で考慮すべきポイントの一部を紹介したい。

図1●中堅・中小ユーザーがソリューションプロバイダに抱く不満
図1●中堅・中小ユーザーがソリューションプロバイダに抱く不満

リプレースのチャンスを生かせない

 A社は年商80億の卸売業。20年間、オフコンを使用し続けてきており、専属のIT要員はおらず専務と業務部の社員1人がいわば片手間でシステムの面倒を見ている状況だった。追加開発などは長年、付き合いのあるソリューションプロバイダに依頼している。

 2005年、「環境変化に柔軟に対応できるシステムを構築する」「運用コストを削減する」という2つの目的でシステムの全面改訂を実施すべくERP(統合基幹業務システム)ソフトを検討し、数社から提案を受けた。しかし、どのソリューションプロバイダもユーザー企業の現状、例えばビジネス環境、業態、IT化の成熟度などを考慮せず、パッケージを導入することだけを目的としているような提案だったという。

 「どのように利活用するのか、またどのように拡張していくのかなどの提案が欲しかったのだが、全くなかった」と専務。結局、既存システムのソリューションプロバイダからの提案(スクラッチ開発)を受け入れることになり、本来の目的であるシステムの老朽化対応、運用コスト削減は実現できなかった。「オフコンから逃れられなくなってしまった」と専務が語るように、せっかくリプレースのチャンスがありながら、どのソリューションプロバイダもニーズに対応できなかった。

 中堅・中小企業にはこのようなオフコンユーザーで、かつ専属IT要員がいないようなケースが多い。ERPソフトなどのオープン系のシステム(マルチベンダー対応)への移行提案をするときには、移行後にどのように運用が変わるのかをイメージ、理解してもらうことがポイントになる。オフコンユーザーは導入したソリューションプロバイダから手厚いサポートを受けていることが多く、その辺の不安を払拭するようなサービスメニューや体制、提案が必要になる。

IT化の優先課題を示すことが重要

 B社は年商500億円の卸売業。親会社からの資本が50%入っており、現システムは親会社の意向で導入したERPソフト、つまりは親会社系のシステムインテグレータのパッケージだった。IT専属要員は3人で以前は親会社主導だったが、現在は独自でシステムを企画、構築・運用している。

 ただし課題があった。せっかく導入したERPソフトは販売管理の機能しか使っておらず、その他のモジュールは使えなかった。また、親会社向けに入力するデータと自社システム用と二重入力をせざるを得なかった。販売管理システムと会計システムとは連携が取れていないため、ここも二重入力になっている。

 こうした状況を解決するため、B社は独自にIT化プロジェクトを立案していたのだが、今後どのように推進すべきか、スクラッチまたはERPソフトを導入すべきか、それも段階的導入がよいかビックバン導入かなどの相談に乗ってほしいと依頼してきた。

 初回訪問前に現状のシステム構成、システム化の目的、課題や実現時期などの内容が盛り込まれている資料を入手したが、驚いた。大企業でも実現できていない内容の課題(システム化というよりも人間系で実現する内容)を数カ月で、それもすべてシステムで実現するようなイメージの資料だった。筆者の経験上、このような資料を作成するのは、中堅・中小企業に多いようである。

 こうした場合、ソリューションプロバイダが先頭に立ち、優先順位を示した提案を行うべきだろう。中堅・中小ユーザーの要望が盛りだくさんでも、整理して導入スケジュールを立案することが、信頼獲得につながる。実際、B社のIT責任者に聞いてみると、1カ月以内に方向性を出す必要があるとのことで、実現したい機能にフォーカスする内容になってしまったという。経営課題などを確認する余裕はなく、課題に対する優先順位なども全く考慮されていなかった。

課題を整理してプロセスを示すのが役目

 中堅・中小ユーザーの課題を分析すると、ソリューションプロバイダに何を求めているかが分かってくる。ソリューションプロバイダは相手の現状、課題をうまく交通整理して、真の悩みを把握して解決に導くプロセスを示してあげることが重要なのである。そして悩みを把握したら、IT化の成熟度に応じた、つまり身の丈にあった段階的アプローチによるシステム提案が必要になるのだ。もちろん相手のビジネス特性、企業規模、業態、予算なども考慮すべきだろう。しかし実際、多くのソリューションプロバイダはお客様の現状を理解しようとせず、自社のソリューション、パッケージのみを売り込もうとする。これでは中堅・中小ユーザーからの受注は獲得できない。

図2●ソリューションプロバイダに対する疑問
図2●ソリューションプロバイダに対する疑問

中村 隆 緑屋情報システム マーケティング&セール部 CMO/ ITC-ERP研究会
中堅商社の営業、情報システム部門で運用・企画を担当後、独立系システムインテグレータでERPソフトのプリセールスや営業を経て、ユーザー系Sierの新会社設立に参画。ERPソフトをベースにしたテンプレートの企画・営業を担当。