7月22日の朝日新聞朝刊に「携帯 ほぼ通話せず4割」という興味深い記事が載っていた。これはモバイルマーケティングデータ研究所の「携帯電話の利用に関する実態調査」を基にした記事で,1日の通話回数が「ほとんどない」とするユーザーが43.9%にも及ぶという内容である。

 同調査に回答した9584人のうち96.7%は定額のデータ通信サービスを利用しており,そのうちの91.4%は1日に1通以上のメールを送信している。5通以上送信すると答えたユーザーも64%に上る。つまり,通話回数が「ほとんどない」と答えた4割強の人も,メールなどのデータ通信端末としては携帯電話を活用しているという実態が浮かび上がる。

 データ通信中心のユーザーが案外多いというこの事実は携帯電話事業者(キャリア)に戦略の転換を迫るかもしれない。なぜなら,データ通信中心のユーザーは,「1時~21時までソフトバンク携帯電話同士なら通話料が無料」や,「1端末で2つの電話番号が持てる」,「無料通話分を無期限くりこしできる」といった各社が必死にアピールしている施策に,ほとんど魅力を感じないはずだからだ。そもそも通話をしないので基本使用料に含まれる無料通話分ですら無駄である。無料通話分はいらないし,通話料も高くて良いから,もっとデータ通信の安い料金プランを用意して欲しい,というのが本音だろう。

 端末にしてもそうだ。スマートフォンが話題を呼んでいるとはいえ,大半の携帯電話は音声通話を中心に考えられたデザインを採用している。しかし,データ通信中心のユーザーにとっては,縦長のきょう体や0~9が並んだテンキーは必ずしも必要ないことになる。代わりに,フルキーボードや手書き入力など,もっと文字入力に特化したユーザー・インタフェースが求められるだろう。

 もっとも,ユーザーの利用形態とキャリアのサービスの間にギャップが生じているということはキャリアにとってはチャンスのはずだ。飽和しつつある携帯電話市場で商品やサービスの差異化を生み出す余地が見えてきたと言えるからだ。例えば,データ通信は音声通話と違ってサービスのレベルに差を付けられる。定額のデータ通信サービスでも,QoS技術を使って,「料金は少し高いが他のユーザーよりも通信が速いプレミアム版」のようなものを提供できるかもしれない。