NGNのアクセス回線は,光ファイバに始まりWiMAXなど無線ブロードバンドに広がっていく。メガビット・クラスの回線が普及することで,提供できるサービスの幅が広がる。NGNの標準化では規定されていないが,ホーム・ゲートウエイも実サービス提供においては大きな鍵を握る。

 ユーザーにとってNGNへの入り口になるのがアクセス回線である。ハイビジョン映像の放送サービスなど,NGNの機能をフルに活用するには広帯域のアクセス回線が必要になる。実際,NTTが構築するNGNでも当初はアクセス回線として光ファイバだけをサポートする。

 ただ,NGNは光ファイバだけのものではない。例えば将来は携帯電話などもNGNを使うようになる。いわゆるFMC(fixed mobile convergence)を実現するのに必要だからだ。xDSL(digital subscriber line)やWiMAX(world wide interoperability for microwave access)に代表される無線ブロードバンドなど,さまざまなアクセス回線が整うことでNGNの魅力も増していく(図1)。

図1●NGNのコアとアクセス・ライン
図1●NGNのコアとアクセス・ライン
右側がアクセス・ラインで各種PON技術を使った光ファイバやxDSLだけでなく,無線ブロードバンドなども使われるようになる。
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 以下では光ファイバを中心にアクセス回線で使われる伝送技術を紹介する。最後にアクセス・ネットワークの宅内系でホットな話題となっているホーム・ゲートウエイについて述べる。

FTTH普及後も使われるVDSL

 従来から家庭に引かれている電話線(銅線)を利用した伝送技術はアナログ電話からISDNになり,xDSLと進化してきた。xDSLにはHDSL(high bit rate DSL),ADSL(asymmetric DSL),SDSL(symmetric DSL),VDSL(very high bit rate DSL)などがある。

 この中で圧倒的に使われているのがADSLだ。下りの速度を上りよりも速くすることでWeb閲覧などインターネットでの利用に向いていることと,局から数km離れたところまで使えるためである。ADSLの高速化は著しく,日本では下り50Mビット/秒のサービスが主流である。ADSLは北米向けのAnnex A,欧州向けのAnnex B,日本向けのAnnex Cと標準仕様が市場ごとに分かれている。

 一方,近距離用として普及しているのがVDSL。VDSLは通信距離は100m程度と短いが,双方向100Mビット/秒で通信可能な製品が出始めている。VDSLには,VDSLあるいはVDSL1などと呼ばれるG.993.1で標準化された仕様と,VDSL2と呼ばれるG.993.2で標準化された仕様がある。双方向100Mビット/秒が可能なのはVDSL2。VDSL2はDMT(discrete multi-tone)方式を採用し,VDSLよりもADSLとの親和性が高い。今後チップの量産化によるコストダウンが見込まれる。

 またVDSLは集合住宅などでFTTHの最終段として使われている。そのため,FTTHが普及した後もVDSLは使われて行くと考えられる。日本では月ごとの加入者数の増加は既にFTTHがADSLを上回っているが,欧州など石畳を掘り返さなければ新たに光ファイバを引くことができないところでは,まだまだADSLが主流である。

日本や北米は光ファイバが中心に

 日本や北米などでは既にFTTH(fiber to the home)など,光ファイバによるアクセスがメインになっている。光ファイバのアクセスも加入者宅まで光ファイバを接続する形態,途中まで光ファイバを使い,最終段は銅線になる形態などがあり,FTTH/FTTN(fiber to the node)/FTTC(fiber to the curb)などと分類されている。このうち,FTTNとFTTCはどちらも,ユーザー宅の近くまで光ファイバを引き,そこから先はVDSLなどを使ってアクセスする方式。日本における集合住宅のFTTHは正確に言えば,FTTN/FTTCである。また,日本ではFTTR(fiber to the remote terminal)という仕様も策定中。これも名前こそ違うがFTTN/FTTCと同じ意味だ。ただし,FTTRは最後のxDSL部分で,出力が厳しく規制されているため,あまり高速なサービスは実現できない。

 また1心を1ユーザーが占有して,メディア・コンバータを加入者宅に設置するタイプと,1心を途中で分岐して複数ユーザーで共有して使うPON(passive optical network)の2種類に分かれる。メディア・コンバータ型はファイバを占有できるメリットがあるが,光ファイバをユーザーの数だけ局まで引かなければいけない。多大なコストがかかるため低料金で提供することが難しい。

 日本で導入されているIEEEで標準化されたGE-PONと北米で導入が始まりITUで標準化されたG-PONの比較を表1に示す。一般に,G-PONの方が高機能だが,GE-PONの方がコストがかからない。特に日本でFTTHが伸びだした2004年ころは,まだG-PONの機器はほとんど出回っていなかったため,1Gビット/秒を実現するにはGE-PONしかなかった。

表1●G-PONとGE-PONの比較
表1●G-PONとGE-PONの比較
日本ではGE-PONが広く使われている。
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次世代PONはWDM技術などを利用

 G-PON/GE-PONの次の光アクセス・システムとして,10G-EPON,WDM-PONなどの議論が始まっている。10G-EPONではバースト送受信回路技術,DBA(動的帯域割当)の高速化,WDM-PONでは低価格化などの課題があり実用化にはまだ時間がかかる(表2)。

表2●WDM-PON,G-PON,HG-PONの比較
表2●WDM-PON,G-PON,HG-PONの比較
WDM-PONは高速で将来性があるが技術的にはまだ未熟である。HG-PONはWDM-PONの高速性とG-PONの入手しやすさの両立を狙う。
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 富士通ではWDM-PONなどが実用化されるまでの“つなぎ”としてHybrid G-PON(HG-PON)を提案している。上りの周波数を一つだけに限定することで,宅内の送信機をG-PONと共通化できる(図2)。

図2●HG-PONの概要
図2●HG-PONの概要
富士通が提案している技術でWDM-PONとG-PONのいいとこ取りを狙ったもの。上りの周波数は一つしか使わないため,G-PON用の宅内機器が利用できる。
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村勢 徹郎(むらせ・てつろう)
富士通 フォトニクス事業本部 プロジェクト統括部長
1977年,東京大学工学部電子工学科卒業。同年富士通株式会社入社。ディジタル・ループ・キャリア・システム,SDH伝送システムの開発に従事。1998年よりブロードバンド・アクセス・システムの開発に従事。2006年6月より現職。