2005年度秋期の情報処理技術者試験。私はシステムアナリスト試験に挑戦していた。午前,午後Iと順調に試験をこなし,午後IIの論文もなんとか書き上げることができた。自分勝手な思いではあるが,「よくできたのでは!?」という手応えを得て,試験会場を後にしたのだった。

 それから数カ月後,心待ちにしていた合格発表の日がやってきた。合格を信じていた私は,合格番号の発表が始まるやいなや,Webページを開き自分の受験番号を入力した。しかし,目に飛び込んできたのは無情にも午後IIの「評価ランクB」(合格水準まであと一歩)という結果。かなりの手応えを感じていただけに,この結果には正直ショックを受けた。

失敗の原因

 私はなぜ不合格となったのか,理解できず苦しんでいた。

 テーマに沿って具体的に書けたはずだし,字数も十分にクリアできていたはずだ。システムアナリストとしての知識が欠けているのだろうか?それとも,もっと豊富な実体験に基づいた深い洞察力が必要なのだろうか?色々と考えを巡らせてはみたが,明快な答えがなかなか出ずにいた。

 そんな状態から私を救い出してくれたのは,意外にも問題冊子の注意書きであった。それは受験する誰もが目にしているであろう次の一文である。

「問題文の趣旨に沿って解答してください」

 問題冊子を何気に眺めていてふと気になったこの注意書きが,私を目覚めさせてくれるキッカケとなった。自分の答案は本当に期待されるものになっていたのだろうか?

 私は捨てずに置いてあった問題冊子を開き,自分が書いた論文を思い出しながら検証してみることにした。改めて問題文を熟読してみると,自分の論文とはどこか噛み合っていない。いや,問題文がおかしいのではなく,自分の論文が問題文の趣旨に反していたのだ。ようやく,失敗の原因は「問題文をよく読まず趣旨を正確につかめていない」であることが判明した。なんと基本的なことであろうか。

「局面」を意識せよ!

 不合格となった2005年度の試験で私が選択したのは,人材育成をテーマとした問題であった。IT業界に身を置く立場として最も身近なテーマであり,題材には困らないだろうという理由で選択したのである。

 2時間で2400字以上の論述という時間的に厳しい試験だけに,ほとんどタイトルだけで直感的に問題を選び,問題文はサラリと一読しただけで書き進んでいったのだが,それがいけなかった。

 私の論文は確かに人材の育成というテーマで書かれていたのだが,問題文の中で指定されていた「人事部門と協力して」といった,いくつかの条件を無視していたため,題意と微妙なズレが生じていた。

 午後IIの問題文にはシステムアナリストとしての役割が求められる「局面」が用意されており,そこでどのように振る舞ったのかが問われるようになっている。それは現実に起こり得るシーンを想定しているものであり,その状況や背景が,受験者に理解できるよう長い問題文の中に散りばめられているのである。

 それらをきちんととらえていないと,出題者が期待している方向に論文を導くことは困難となる。私も出題者が考えているものとは異なった「局面」を勝手に想定して書き進めた結果,趣旨とはズレた論点で記述してしまっていたのだ。

 ちなみに,2006年度秋期試験より,情報処理技術者試験センターから採点講評が発表されるようになったが,そこでも題意と異なる論述について指摘している。やはり題意に沿っていない論文が多いということだろう。

勝負は最初の15分

 翌年,私はシステムアナリスト試験に再挑戦した。

 午後IIの論文で選んだテーマは「情報システム投資の中長期計画の策定について」である。今回のテーマについても普段から興味のあるテーマであったため,使えそうな題材はいくつか持っていた。

 しかしここで要注意である。昨年と同じ失敗をまた繰り返してはいけない。少しでも早く書き始めたい衝動を抑え,開始後15分は題意の把握と論文構成の組み立てに専念することにした。

 まずは問題文を熟読して情報を丹念に拾い集め,出題者が想定しているであろう「局面」と同じ状態を頭の中に描く。そして,その「局面」において問われている題意を読み取り,そこから論点がブレないよう注意して論文構成を組み立てていった。

 以上をすべて終え,いよいよ記述に取り掛かるとかなりのスピードで筆が進んだ。文章を書くときに迷いがなくなり,途中で考えることや書き直しがほとんどなくなったからである。その結果,さすがに全体を読み返す時間までは残っていなかったが,3000字近くで論文を書き上げることができた。

 そして結果は「評価ランクA」,つまり合格だった。難関の試験に合格できた喜びと同時に,自分の分析と対策が間違っていなかったことが証明できた瞬間であった。今回の作戦が功を奏し,次に受験したシステム監査技術者試験にも続けて合格できた。

 現在,私はシステムアナリスト協会(関西支部)に所属している。毎月開催される定例会には様々な分野で活躍している方が多数出席しており,興味ある話題に,よい刺激を受けている。試験合格による会社での評価アップや報奨金もメリットであるが,こうした資格を通じた交流活動もまた非常に有意義なものと感じている。

試験概要:システムアナリスト試験
経営戦略に基づく情報戦略の立案,システム化全体計画および個別システム化計画の策定を行う者を対象とした試験。受験者の実務能力・応用力がそのレベルにあるかどうかを問う。情報戦略立案,情報技術を活かした業務革新提案,およびシステム化計画策定の担い手として,幅広い知識・経験・実践能力が要求される。合格率は毎年約8~10%前後で推移しており,情報処理技術者試験で最も難易度の高い試験の一つである。

庭山 恵介(にわやま けいすけ)
金融機関系ソフトウエア企業に勤務し,約14年間銀行システムの設計・開発に携わる。主にメインフレームを中心とした基幹系システムで基盤設計に従事。日本システムアナリスト協会(関西支部)正会員。他の保有資格は,システム監査技術者,中小企業診断士など。