日経コミュニケーション2005年8月1日号の記事を掲載しています。原則として執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっている可能性がありますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 甚大な災害では,ディスク装置などストレージが大きなダメージを受けてデータを喪失してしまう可能性がある。そうなると,最後の頼みは磁気テープなど媒体に記録したバックアップ・データだけとなる。

テープからのシステム復旧に7カ月

 しかし,バックアップ・データからシステムを復旧させるのは大変な作業となる。

 例えば住友ゴム工業は,95年1月の阪神淡路大震災で情報システムの建物が被災し,機器の大部分が損壊した。そして,メインの基幹系コンピュータは建物から運び出すことができず,継続利用を断念。磁気テープに記したバックアップ・データだけからのシステム復元に取り掛かった。完全復旧したのは95年夏。実に7カ月間もの期間を要してしまった。

 神戸製鋼所も震災の際に磁気テープから一部システムの復元を試みた。

 被災した神戸本社のデータ・センターの復旧に「約2週間かかると見積もった」(鉄鋼部門技術総括部担当部長の清水孝之システムグループ長)ため,第2拠点の兵庫県・加古川のデータ・センターで1日でも早くシステムを動かすことを計画。「本社センターの復旧と,加古川でのバックアップ・プロジェクトを震災翌日から並行して走らせた」(清水グループ長)。

 最終的には震災1週間後に神戸センターのシステムが復活。バックアップからの復元は完了せずにプロジェクトは終了した。

 このようにバックアップ・データからのシステム復元には,多大な労力と時間がかかる。業務に与える影響は甚大だ。

 例えば,神戸製鋼所の単体売り上げは年間8000億円。単純計算で1日分で約20億円の損失となる。顧客である自動車メーカーの生産まで止めてしまう。こうした危機感から,システムが仮にダメージを受けたとしても再開までの時間を短縮するシステムの開発に乗り出した。

代替システムを用意し,3時間後に起動

 具体的には,神戸本社と加古川のセンターそれぞれに,非常時に利用できる予備マシンを用意(図4)。業務で発生する更新データを1Gビット/秒の高速専用回線で互いの拠点のストレージに送り合い,「相手のセンターには,自拠点の1秒前までのデータが必ずある」(経営企画部IT企画室の林高弘室長)という状態にする。

図4●神戸製鋼所はバックアップ体制を2005年末までに大幅に強化する
センター間を1Gビット/秒の回線で接続。相互にバックアップすることで,災害発生の1秒前の状態まで戻れる。
[画像のクリックで拡大表示]

 つまり,データそのものを相手の拠点にコピーとして置くのだ。センターの被災時には一方のセンターに置いた予備用サーバーを起動。「およそ3時間の準備があれば,システムを停止した1秒前の状態から業務を再開できる」(清水グループ長)という。

 システムは2005年中の稼働を目指して構築しているところだ。導入の直接のきっかけとなったのは,2002年に発生した加古川製鉄所の全面停電。製鉄所内に自社で備えた発電設備が故障し,敷地内のデータ・センターも停電した。

 同センターには加古川の製鉄システムだけでなく,全社各拠点の製鉄部門のシステムも収容している。そのため全社で製鉄作業や鉄鋼の出荷が止まってしまった。

 新システムが完成すれば,加古川の機能を神戸のセンターで肩代わりできる。例えば,関東の拠点では鉄鋼の出荷を続けられる。当時の停電は復旧に半日かかったが,新システムは3時間で復活可能。影響を半分以下に抑えられる。

WANでバックアップしたデータで即復元

 静岡県蒲原町も回線を利用したバックアップで,復旧時間の短縮と喪失データの最小化に取り組んでいる。住民台帳と税務情報を対象に,バックアップ・データをWAN回線で30分ごとにデータ・センターに送信している。データは差分を暗号化したものだ。

 非常時にはシステムを運用するTKCが新しいサーバーを用意。バックアップ・データを復元して自治体に持ち込む。復旧にかかる時間はTKCによると「検証を含めて再セットアップに約7時間。その後,できるだけ早く自治体に持ち込む体制となっている」(地方公共団体事業部営業企画本部電子自治体ソリューション推進部の伊勢勝彦課長)。

 蒲原町役場総務課情報管理係の五十嵐大輔氏は「この地方は大地震の危険があるため,住民の生活に直結する重要データを守る方法としてWAN経由のバックアップを採用した。回線を利用するため,30分という短い間隔でバックアップできる」と言う。2004年の12月には,災害の発生を想定した復旧訓練を実施。実際にデータを復元できることを確認した。