総務省は2007年7月11日,BS放送用衛星の2011年以降の利用方法を定めた制度整備案と,同衛星を運用する事業者(受託放送事業者)を決める際の審査基準案に関する意見募集の結果を公表した。5月30日から6月28日まで行っていたもので,関係企業や個人から合計22件の意見が寄せられた。

意見募集の対象になった制度整備案と審査基準の概要
表●意見募集の対象になった制度整備案と審査基準の概要
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 意見募集の対象になった制度整備案は,BSアナログ放送が終了する予定の2011年7月以降に空く3本のトランスポンダ(電波中継器)と,BS放送用として2000年に日本が新たに割り当てを受けた4本のトラポンの合計7本のトラポンを,デジタル放送で利用できるようにするための「放送普及基本計画」と「放送用周波数使用計画」の一部変更案である。また総務省は2007年度中に,2011年7月以降のBS放送用衛星の運用を希望する事業者からの無線局免許の申請を受け付ける予定である。今回の意見募集の対象になった審査基準案は,申請した事業者に無線局免許を与える際の指標になるものである()。

トラポン7本の同時利用に異論

 これらの三つの原案のうち審査基準について今回の意見募集では,大筋で賛同する意見が大勢を占めた。一方,二つの制度整備案については一部の事業者から,7本のトラポンの利用開始時期の見直しなどを求める意見が出された。7本のトラポンの利用開始時期について総務省は,「2011年7月以降,できる限り時期を合わせて利用を開始することが望ましい」という方針を打ち出している。こうした方針を,今回の制度整備案にも盛り込んだ。

 これに対してBSデジタル放送事業者のビーエス朝日(BS朝日)は,「BSアナログ放送終了後に空く3本のトラポン(追加の3本)と新規の4本のトラポンはすべてを同時に使用するのではなく,BSデジタル放送の市場動向や技術進展をみながら,個別に判断するのが望ましい」とした。そのうえで,「追加の3本の利用方法については,委託放送事業者の業務認定申請を受け付ける2009年末までに結論を出せば十分に対応可能である。新規の4本については追加の3本の利用方法を決めたあとに,適切な環境が整うまで利用を控えても問題はない」とした。

 BS朝日の親会社であるテレビ朝日は,「デジタル放送で利用するのは追加の3本のトラポンで十分であり,新規の4本の利用には反対する」とした。民放キー局系BSデジタル放送事業者5社のうちBSフジとBSジャパンの2社が,2006年度に初めて単年度黒字を達成するなど,各社の業績は改善しつつある。しかし各社は依然として,巨額の累積損失を抱えている。さらに2007年12月には,新規参入事業者2社の放送開始が予定されている。このような段階でチャンネル数を増やすことは,BSデジタル放送全体のコンテンツ制作力の強化を阻害するというわけだ。また,現行のBSデジタル放送受信機に誤作動などの不具合が生じる恐れがあることも,「7本のトラポンの利用を慎重にすべき」という意見の背景にある。

 こうした意見に対して,総務省が2006年10月19日から12月28日に行った新たなBS放送用周波数の利用に関する提案募集の結果をみると,事業者が利用を希望する周波数をトラポン数で換算すると,7本を大きく上回る13本強に達している(本誌2007年2月5日号p.11参照)。そのため総務省は,「トラポン7本の利用方法の決定を先送りすることは望ましくない」と判断した。「チャンネル数が増えることは,コンテンツ発展の観点からも望ましい」と考えている。受信機の不具合については,電子情報技術産業協会(JEITA)に事実関係の確認を要請した。今回の制度整備案を総務省は,意見募集の結果を公表した7月11日の電波監理審議会に諮問した。諮問を受けた電監審は総務省の見解を支持し,諮問内容を容認する答申を同日に出した。これにより2011年以降のBS放送用衛星の利用方法の土台が固まった。