■中小ソフトハウスの経営者・経営陣の皆様に成長の壁を突破する方法をお話する第4回目は、理念を実現するために大切なビジョンの作り方についてお話します。ビジョンとは何のために作るのでしょうか?

(長島 淳治=船井総合研究所 戦略コンサルティング部)



前回で「経営理念=夢」という発想から、経営者が創る夢の描き方についてお話をしてきました。それでは夢があれば会社は成長するのでしょうか? 実はそう簡単にはいきません。理念がしっかりとあるにもかかわらず、なかなか成長しない企業があります。このケースもまた、年商3億円の壁になります。

そこで今回は「ビジョンの描き方」についてお届けします。

「夢」では理解できない従業員

「長島さん、弊社には創業オーナーが創った立派な理念があります。また、朝礼では全員で唱和し、浸透する仕組みに苦心しています。ところが、一向に会社は成長しません。どうしてでしょうか?」

確かに会社が成長するためには、会社の価値観を提示する経営理念を構築し、それを社員一人ひとりに浸透させる仕組みを作ることが重要です。しかし、この経営理念だけでは会社を成長させることはできないのも確かです。

例えば、こんな状態を想像してみて下さい。

あなたはマラソン大会に出場します。その大会の主旨に賛同し、盛り上げるべく参加しようと決意しました。いつもその大会が表明している思いを読み返し、絶対に貢献しようと決意を固めています。いよいよマラソン大会がスタートしました。気持ちよく走っているあなたは、ふとある事に気付きます。

「ところでこの大会、フルマラソンなの? それともハーフマラソン?」
「大会のルールって教えてもらったっけ?」
「マラソン大会って言うけど、コースがよく分からないな」
「誰と一緒に走るの? 誰が競争相手なんだろう?」
「そもそも勝つための条件が分からないな」
「どうすれば、この大会の主旨に合う貢献となるんだろう?」

様々な疑問が浮かびます。そこで大会を仕切っている事務局の人に聞いてみます。彼はニコニコしながら、大会の素晴らしい主旨を語ります。しかし、それ以上の答えは返ってきません。あなたはこの状態で走り続けることができますか?

私はビジョンのことを、理念を具現化させるための中間目標と表現しています。つまり、そのビジョンを達成することで、一歩理念に近付くのです。マラソンで言えば、5キロ地点や10キロ地点に当たるような中間目標となります。

つまり社員に対して、この目標を実現することで、経営理念に一歩近付いているという実感を持たせることが大切なのです。そうしなければ社員のモチベーションはすぐに下降線を辿ることになります。逆に経営理念が立派で素晴らしいものであればあるほど、ビジョンを描くことの重要性は高まります。

3年後のビジョンを描く

「ビジョンって言っても、どんな事を意識すればよいの?」

恐らく疑問を感じた方も多いと思います。ビジョンは3年区切りで考えて頂きます。5年では少し遠く、2年では短すぎです。3年がちょうどよい近未来になります。

まずは3年後のあるべき姿、理想像から真っ先に検討して下さい。ビジョンは未来志向型で考えます。3年後の理想から、現実とのギャップを3年で埋める戦略を立案します。

その時に大切なのは、スローガンと結果としての財務。まず、経営理念をさらに具体化した3年間のスローガンを掲げます。これは行動と直結しやすいリアリティのある内容を考えます。そして、その3年間でどのくらいの会社規模に成長していたいのか、数字でのシミュレーションを行うのです。

現状の積み上げから3年後のイメージをしていく経営者がいます。しかし、これでは会社の成長を生み出す発想が出て来ません。成長の壁を乗り越えるためには、3年後の未来からその壁を越えていく方法を見つける必要があるのです。

また、仮に年商10億円を3年後のビジョンとして位置付けるのであれば、なぜ年商10億円の企業になる必要性があるのか、なぜ3年なのか、という理由が必要になります。それは常に上位概念である経営理念とビジョンから導き出せます。

社員に対しても、必ず説明が必要です。例えば先ほどのマラソンの事例で、仮にその大会の主旨が地球環境を考えようだったとしたら、なぜマラソンなのか、どうしてこの時期なのかという疑問に正確に答えられなければ不信感が湧いてきます。

ビジョンは常に未来志向で考えます。そして経営理念との関係性が必然的であることがポイントとなります。今を基準として見ると越えられなかった高い壁も、壁の向こうから見ると、乗り越えるための意外な解決法が見つかるものです。未来志向と経営理念との整合性、これが成長企業になるための重要な要素となります。

次回は「人と組織の考え方」についてお話させていただきます。


著者プロフィール
1998年、桃山学院大学経営学部卒業。某大手SIerでの営業を経て、船井総合研究所に入社。以来、年商30億円未満のソフトハウスを専門にコンサルティング活動を行う。「経営者を元気にする」をモットーに経営計画作り、マーケティング支援、組織活性化のため全国を飛び回っている。毎週1回メルマガ『ソフトハウスのための幸福経営論』を発行。無料小冊子『ソフトハウスが元気になる30の法則!』も発刊。