基本的にノートだけを持ち歩く。重要なことはカラーボールペンやマーカーで色分けする
 昨年、産業システム営業部部長に就任した岡田は、30人の部下を束ねる。それでも部下の商談に同行し、前線に立つことが多いという。その理由を、「自ら現場に立ち会って、スタッフがどう成長しているかにも目を配るため」と語る。部下には「顧客の期待を超える提案をしろ」と説いている。

 20年に及ぶ経験で、岡田は自らの営業スタイルに大きな自信を得た案件が二つある。一つは入社3年目ころに新規で獲得したある化粧品メーカーの案件だ。当時、東芝は「世界初の持ち運べるPC」といえるDynaBook J3100 SS001を発売。「これでどんな新しいことができるか、真剣に考えた」と岡田は振り返る。思い付いたのが、顧客の小売りサポート部門への導入。スタッフが店舗で品ぞろえなどを模擬するツールなどを提案した。外回りの営業職がITで武装する走りとなったこの案件は、岡田がシナリオを構築する大切さを知る原点になった。数千台ものJ3100を販売し、事業部長賞も受賞した。

 もう一つの案件は、ある大企業の本社移転プロジェクト。短期間でどう完遂させるか。岡田の提案は、東芝ソリューションとしては異例のものだった。引越しにかかわるあらゆる業務を元請けする、ゼネコンスタイルのオフィスソリューションを提案したのだ。円滑な本社移転を実現し、顧客からも感謝されたこの案件は、岡田の中で「顧客の期待を最も超えた提案」として、さらなる自信になったという。

 経験から、岡田は「営業に最も必要なのはシナリオ構築力」と断言する。同社にはその能力を鍛える「トップA3」と呼ぶ手法がある。シナリオをA3用紙一枚にまとめ、提案書として使うというものだ。元々は岡田の上司が発案した手法だが、パターン化など岡田なりの味付けをして部下に広めた。「A3の提案書は、あくまで客先の経営層と議論し、課題を掘り下げるツール。だからあまり細かく書き込まないのがコツ」。「トップA3」を手に、岡田は顧客の期待を超える次なる提案を考えている。

=文中敬称略

岡田 俊輔(おかだ しゅんすけ)氏
東芝ソリューション
製造ソリューション営業事業部
産業システム営業部 部長
 1985年自由学園卒業後、東芝に入社。電算機・OAシステム事業部に配属。主に消費財業界を受け持つ。2001年ソリューション第二事業部に異動、CRMソリューション担当グループ長に就任。2003年東芝ソリューション設立に伴い出向(後2006年に転籍)、主に製造業を担当する。2006年より現職。特技は学生時代からのトランペット。