NTTとKDDI,ソフトバンクの2006年度決算が出そろった。売上高と営業利益がほぼ横ばいで推移したNTTグループは増収減益となった。売上高は前年同期比で0.2%増の10兆7606億円,営業利益は7.0%減の1兆1070億円。2007年度は営業利益が微増するものの,売上高はわずかに減収する予測である(表1)。

表1●主要3事業者の2006年度連結決算と2007年度の予測
表1●主要3事業者の2006年度連結決算と2007年度の予測
参考として2002年度の各グループの決算を掲載した。ソフトバンクは決算予測を公表していない。
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 対照的に,KDDIの業績は順調に推移している。2006年度は売上高と営業利益がそれぞれ,前年同期比9.0%増の3兆3353億円,同16.2%増の3447億円。ソフトバンクはボーダフォン日本法人の買収により,大幅な増収増益を達成した。売上高は129.5%増の2兆5442億円,営業利益は同335.1%増の2710億円だ。ソフトバンクは決算予測を公表していないが,KDDIは引き続き増収増益を見込む。

 中期的なトレンドを見るために5年前の2002年度決算と比べてみるとNTTグループは,NTT東西地域会社の落ち込みが主な要因で,売上高や利益を大きく減少させている。携帯電話ユーザーを順調に伸ばし,売上高や営業利益ともに拡大し続けてきたKDDIグループや,日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)やボーダフォン日本法人(現ソフトバンクモバイル)など,企業買収を重ねて急成長したソフトバンク・グループとの違いが鮮明だ。

 3グループに集約された日本の大手通信事業者は,各社とも携帯電話事業がグループ全体の収益をけん引している。2007年度も引き続き,携帯電話事業の好不調が,グループ全体の収益を左右する構造に変わりはない。

 それでも,固定通信事業の減収を食い止めながらコスト削減を進め,どれだけ利益率を高められるのかも引き続き重要である。特に,固定通信事業の売上高が大きいNTTグループは,IP化の進展に伴う既存サービスの収益落ち込みの影響を大きく受けることになる。

 NTTグループは2006年度,3期ぶりの増収増益を目指していた。だが,ふたを開けてみればわずかな増収こそ確保したものの,営業利益は減った。増益を達成できなかった理由についてNTTは,(1)NTT東西のFTTHサービスの営業や販売にコストをかけた,(2)NTTドコモによるMNPのための拡販に,想定よりも費用がかかった──という2点を上げている。売上高は,音声収入の減少をIP系収入の増加でカバーするには至っていないものの,NTTデータのSI事業の好調さなどが寄与し,3期ぶりの増収をなんとか確保できたという。

それぞれ1万人以下になったNTT東西の社員数

 とはいえ,固定電話の加入者減によるNTT東西の減収減益のトレンドは,いまだ終わりが見えない。NTT東西はここ数年,売上高が右肩下がりに減少し続けている(図1)。NTT西日本に続き東日本も,2007年度は売上高2兆円割れが目前となる。今期のNTT西日本の営業利益は30億円の見込みで,厳しい状況が続く。

図1●NTT東西の売上高と営業利益の推移
図1●NTT東西の売上高と営業利益の推移
売上高は右肩下がりに減少し,営業利益は一度大きく回復したものの年々減っている。

 NTT東西はコスト削減のため,本体の社員をグループ会社に転籍させるなどの措置で対応してきた。本体の社員数は2006年3月末時点で,NTT東日本は6500人,NTT西日本は5800人にまで減少している(図2)。NTT東西が発足した1999年には,それぞれ6万人超の社員を本体で抱えていたことを考えると,驚くべきスピードでリストラを実施してきたことになる。

図2●NTT東西の社員数の推移
図2●NTT東西の社員数の推移
人件費削減のための子会社への出向や転籍,退職などで,本体の社員数は大幅に減少した。

 リストラは2002年度の構造改革で大幅に進んだ。本社の人員を2万弱にまで削減したのだ。具体的にはNTT東西が新会社を作り,51才以上の社員を一度退職させて,15%~30%もの賃金カットを前提に新会社で再雇用したのだ。NTT東西は,これら新会社に業務をアウトソーシングし,人件費だけでなくグループ全体の業務コストを削減した。

 今後も「団塊の世代」が続々と退職していくため,本体やグループ会社の社員が減っていく見込みで,人件費のコスト負担が軽くなるのは間違いない。しかし,IP化の進展度合いや,加入電話網の維持計画によっては,交換機の運用や保守などのため,退職した世代の人員を再雇用しなければならない事態も十分に考えられる。