携帯電話とPDA(携帯情報端末)の機能を一体化したスマートフォンが、ヒット商材へ成長しつつある。鍵を握るのはソリューションプロバイダ。提供事業者は一斉に協業強化へ動き出した。

 北米中心に世界120カ国900万人のビジネスユーザーが利用する、法人モバイル端末の“黒船”が本格上陸した。カナダのRIM(リサーチ・イン・モーション)が開発したキーボード付きの携帯電話機「BlackBerry 8707h」で、NTTドコモが日本語化し、7月23日から販売を始めたのだ。ボタンではなくキーボードからメールを作成したり、携帯電話として電話をかけたりできる。いわゆる「スマートフォン」と呼ばれる製品である。

 世界での実績を背景に、日本のユーザー企業からの引き合いが活発だ。日本語版に先立ち、NTTドコモは2006年9月から英語版端末を販売しているが、当初は外資系企業の採用を狙ってのことだった。

 それがふたを開けてみると「金融機関や製造業などを中心に、日本企業からの反響が予想以上に大きく、『英語版でも構わない』とテスト導入を決める企業が相次いでいる」(NTTドコモの三嶋俊一郎モバイルデザイン推進室ディレクター)という状況。ユーザー企業の声に半ば背中を押される格好で、日本語版の発売に踏み切ったわけだ。

 ただし端末だけ見れば、BlackBerryはスマートフォン市場ではあくまで後発。日本ではウィルコムが2005年12月から展開している「W- ZERO3」シリーズを軸に、法人利用が進んできた。2007年に入ってからはソフトバンクモバイル、イー・モバイルなどが相次いで新機種を投入している。

 にもかかわらずBlackBerryがユーザー企業からの注目を集めるポイントは、ExchangeやNotesといったグループウエアとの連携機能、セキュリティ機能や集中管理機能などをワンパッケージにして導入・運用できる点。具体的にはExchangeやNotesのメールやスケジューラと端末をリアルタイムで同期させるサーバーソフトを、端末とセットにして提供する。

 これまでユーザー企業ごとに作り込む必要があった、「端末とサーバーの間を流れるデータをすべて暗号化する」、「紛失時に遠隔操作で端末機能をロックする」といったセキュリティ機能もあらかじめ実装している。従来のスマートフォン関連ソリューションよりも導入の手間をなくした。

 こうしたソリューションとしての手離れの良さを武器に、NTTドコモは直販だけでなくパートナー企業を積極的に集め、販路拡大を急ぐ方針。今秋をめどに技術情報やテスト環境の提供、サードパーティによるアプリケーションの開発支援、マーケティング支援などを行う新たなパートナープログラムを導入する。

SIerとの協業強化が一斉に進む

 企業導入に特化したBlackBerryのソリューションの登場をきっかけに、スマートフォンの法人市場は一気に活性化しそう()。通信速度などモバイル端末としての基本機能が向上したこともあり、通信事業者は各社ともソリューションプロバイダとの協業を軸に拡販策に乗り出す。

表●携帯電話会社が進めるスマートフォン拡販策
表●携帯電話会社が進めるスマートフォン拡販策
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図●スマートフォンをIT 商材として売りやすい環境が整った
図●スマートフォンをIT 商材として売りやすい環境が整った
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 例えばウィルコムは7月19日に、最新のスマートフォン「Advanced W-ZERO3/[es]」を発売。これに先駆けて4月からW-ZERO3シリーズ向けに提供しているSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型サービス「WILLCOM SyncMobile」では、企業内のExchangeやNotesなどとW-ZERO3シリーズを連携できるようにした。ソリューションプロバイダがスマートフォンを提案する際のセット商材として扱える。

 KDDIは現時点ではスマートフォンを発売していないが、水面下で端末開発を進め、スマートフォンに対応したサービスも着々と準備している。マイクロソフトと2008年3月をめどに、モバイル端末から会社のドメインのメールを送受信できるSaaS型サービスを開始する予定。

 これに先駆けて2007年10月から「SaaS Support Program」と呼ぶパートナー支援プログラムを開始し、SaaS向けのアプリケーション開発を手がけるパートナーや販売パートナーを募る。

 一方、ソフトバンクモバイルは「企業のスマートフォンに対するニーズは千差万別」(法人事業統括部ビジネスマーケティング部プロダクトソリューション企画課の玉川秀軌氏)として、特定のサービスに決め打ちせず、パートナー企業と案件を1件1件掘り起こしていく方向だ。