第1回から第4回まで紹介してきたようにフェムトセルの実用化に向けて,ベンダーと事業者の双方で,技術面やサービス開発の面での取り組みが進んでいる。

 フェムトセルの技術的な課題については,干渉制御や携帯電話網との接続方法を含めて「ほぼ見通しが立ってきている」というのがベンダーの共通する意見だ。残る課題として,フェムトセル本体の価格と,特に日本においてはフェムトセルの制度上の扱いが大きな壁になるのではと,多くの関係者は指摘する。

フェムトセルの価格は100ドル程度になるのか

 ベンダーや事業者が目標とするフェムトセル本体の価格は100ドルから200ドル程度だ。フェムトセルをユーザーに販売するのか無償で貸与するのかは,事業者の判断によるが,少なくとも無線LANルーター並みの価格に抑えたいというのが関係者の一致する意見だ。

 だが現状ではまだフェムトセルの価格はそのレベルまで下がっていないという。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役員兼CTOは「フェムトセルの価格は今のところ5万円から10万円。まだまだ高い」と打ち明ける。またあるベンダーは「GSMのフェムトセルは確かに安くできるが,W-CDMA対応のフェムトセルはまだまだ価格が高くなってしまう」とも指摘する。

 もちろんベンダーにとってみれば,フェムトセルの出荷台数が見込めれば価格は下げられるだろう。価格の低廉化については,どれだけの事業者がフェムトセルを採用するのか,いつ導入を開始するのかなど市場動向に左右される部分が大きい。

現行制度上ではフェムトセルの大量展開は難しい

 日本でフェムトセルを展開する際に,最も大きな課題として残っているのは,制度面で厳しい運用条件が課せられる点だ。ソフトバンクモバイルの宮川潤一CTOは,フェムトセルを日本で展開するには,下記のような項目が制度上の制約になると指摘する。

●フェムトセルを日本の現行制度で運用した場合

  • 1局ごとに免許申請が必要
  • ユーザーが加入する回線を使うことはできない
  • 回線にはQoS(quality of service)が必要。回線の途切れは許されない
  • 既存の基地局と同様に,無停電電源設備(UPS)の設置が必要
  • 資格を持った電気通信主任技術者が設置する必要がある
  • ユーザーによるフェムトセルの持ち運びや,電源のオン/オフはできない

 現行制度上では,フェムトセルは基地局そのものの扱いになるため,これだけ厳しい条件が課せられる。ユーザーが設置や移動ができないほか,商用のブロードバンド回線が利用できないことになる。

 NTTドコモは上記のような制度を守った上で,フェムトセルの運用を開始するという。一方のソフトバンク・グループは総務省に制度改正を働きかける考えだ。

 総務省もフェムトセルの制度上の取り扱いについて議論を始める意向を示している。6月末に総務省のモバイルビジネス研究会が出した報告書案には「07年度末を目途に,フェムトセルの取扱いについて一定の結論を得ることが適当」という一文が含まれている(関連記事)。2008年3月頃には総務省で,フェムトセルの議論が始まることになりそうだ。

新しい技術には新しい制度を

 フェムトセルは,これまでに存在しなかったまったく新しい技術だ。新しい技術には,それに合わせた新しい制度が求められる。フェムトセルはユーザーの利便性を向上し,新しいサービスを形作れる技術である。伝送路として商用ブロードバンド回線の利用が認められれば,その自由度は大きく広がる。

 規制緩和に向けては,誰もが利用可能なフェムトセルと,家庭のユーザーのみに利用者を限定するフェムトセルで,条件を分けるという考え方もできる。誰もが利用できる公衆用途のフェムトセルは,既存の基地局並みの信頼性が求められる。少なくともフェムトセルの設置ユーザーに,勝手に電源をオン/オフされたら困る。一方で利用ユーザーを制限したフェムトセルは,基本的には自分専用の基地局になるため,電源をオン/オフにしても他者に影響を与えない。そのため,利用者を制限するようなフェムトセルに対しては,より規制を緩和するようなルールの決め方もあるのではないだろうか。

 一方でユーザー自身によるフェムトセルの設置については,いろいろ難しい側面がある。ユーザー自身の設置や移動を認めると,フェムトセルの持ち運びが可能になり,どの位置から電話を発信したのか特定が難しくなるからだ。2007年4月からは携帯電話からの緊急通報の際に,端末のGPS機能や基地局の情報を参照して,発信者の位置を通知することが義務付けられた。この義務を遂行するためには,フェムトセル自体にGPS機能を内蔵するなど,なんらかの対応が必要になる。またユーザーがフェムトセルを持ち運べるとなると,海外のブロードバンド回線にフェムトセルを接続し,国内にいる時と同じように通話が可能になる。このような利用を認めるのか認めないのかについても,慎重な議論が必要になるだろう。