前回に続き,今回もフェムトセルを実現するための技術的なポイントを紹介しよう。今回は,フェムトセルと既存の基地局との干渉の回避方法,フェムトセルと既存基地局間のハンドオーバー,フェムトセルの管理方法の3点について解説する。

既存の基地局との干渉回避方法は2通り

 フェムトセルは基地局そのものなので既存の基地局との間で干渉は少なからず発生する。しかもユーザーの手によって設置する形を目指し,その数も場合によっては数万,数十万のオーダーになる可能性があることから,既存基地局への影響は膨大だ。干渉によって既存基地局のエリアを狭めてしまうケースも出てくるだろう。

 このような課題を解消するために各ベンダーは,フェムトセル自体が回りの電波状況を感知して,既存の基地局への影響を最小限に抑えるよう出力を調整する機能を取り入れているという。

 ただこの機能だけで干渉問題のすべてを解決できないのではと不安を指摘するベンダーもいる。場合によっては,既存の広域の基地局とフェムトセルが利用する周波数チャネルを分けるケースもあり得るのでは,とこのベンダーは指摘する(図1)。

図1●フェムトセルと既存の基地局(マクロの基地局)の干渉回避方法
図1●フェムトセルと既存の基地局(マクロの基地局)の干渉回避方法

 なおフェムトセルの利用形態として現在,家庭内のフェムトセルにどんなユーザーでもアクセスできる形と,登録したユーザーのみ接続できる形の2通りが考えられている。多くの携帯電話事業者は,登録したユーザーだけフェムトセルにアクセスできる形を取る可能性が高い。となるとフェムトセルが設置してあるエリア付近では,一般の携帯電話ユーザーが通信しづらくなる可能性がある。このような課題については「まだ検討が進んでいない」とあるベンダー幹部は打ち明ける。

 いずれにせよ現時点では,まだ数万台規模のフェムトセルを使って実地試験をしたベンダーや事業者は存在しない。今後スタートするであろう大規模なフィールド・トライアルにおいて,その影響は明らかになるだろう。

ハンドオーバーの対応はベンダーによってまちまち

 基地局が切り替わっても通信が途切れないハンドオーバーは,携帯電話サービスにはおなじみの機能。ただフェムトセルと既存の基地局のハンドオーバーに関しては,ベンダーによって対応がまちまちだ。例えばNECや日本ソナス・ネットワークス,エリクソンなどは,フェムトセルから既存の基地局,既存の基地局からフェムトセルの双方のハンドオーバーをサポートしたいとしている。一方モトローラは,フェムトセルから既存の基地局へのハンドオーバーはサポート予定だが,既存基地局からフェムトセルへのハンドオーバーは,「技術的には可能だが,ターゲットとなるフェムトセルが多すぎるため,ビジネス的にやるべきかどうかの判断になる」(モトローラ)という。

 フェムトセルのサービス面でのコンセプトから,ハンドオーバーをサポートするべきかどうかを検討すべきという意見もある。ベンダーや事業者が考えるフェムトセルのサービス像の一つに,フェムトセル経由の通話や通信を安くするという形がある。設備投資やネットワークの負荷を抑えられる対価として,ユーザーに対して料金面で優遇する。この際に,例えば通話しながらフェムトセルから既存の基地局へシームレスにハンドオーバーすると,厳密なルール運用が難しくなる。そのため「あえてハンドオーバーをサポートしなくてもよいのではないか」と語るベンダーもいる。

接続するだけで使える仕組みを用意するベンダーも

 フェムトセルのサービス・コンセプトの中には,ショップなどで購入したフェムトセルを,ユーザー自身が自宅のブロードバンド回線に接続して使う形がある。このようなサービスを実現するために,ブロードバンド回線に接続しただけで,フェムトセルを稼働状態にするようなシステムを用意するベンダーもいる。

 例えば英アイピー・アクセスは,パッケージのバーコード情報と連動して,フェムトセルと携帯電話のコア・ネットワークの接続を許可する仕組みを準備している。店舗でユーザーがフェムトセルを受け取る際に,店舗のスタッフがバーコードを読み取り,携帯電話のコア・ネットワークとの接続設定を済ませてしまう。あとはユーザーが自宅のブロードバンド回線に接続するだけで,フェムトセルが使えるようになる仕組みだ。

 英ユビキシスやエリクソンは,フェムトセルの中に携帯電話端末と同じUSIMカードを搭載させている。携帯電話端末同様,USIMカードの情報を使って,携帯電話のコア・ネットワークとの接続を許可する計画だ。

 このようなフェムトセルの管理機能もベンダーの腕の見せ所と言える。