インターネットの黎明期から技術基盤づくりに関わり、長年この世界を牽引してきた慶應義塾大学の村井純教授は、子どものインターネット活用についても深い関心を持ち、全日本小学校ホームページ大賞の実行委員長などを務めている。「インターネットによって、子どもの表現力は大きく伸びた」と村井先生は話す。子どもをめぐるネットセキュリティが問題になっている中で、それでも子どもにインターネットを使わせることにはどんな可能性があるのか、話を聞いた。

デジタルARENAより転載)

日本の子どものインターネットの使いこなし力は、世界的にもレベルが高い

村井先生は、世界のインターネット事情に精通しています。海外と比べたときに、日本のインターネット利用の特徴はなんですか。

村井先生いわく「日本の子どもはケータイの新しい機能が出るたびに、上手に自分たちの表現に取り入れます」

村井氏:大きな特徴として3つあります。一つはケータイのインターネット機能がこれだけ発展している国はほかにないということ。もう一つは、家庭でのパソコンとブロードバンドの普及率が著しいということですね。子どもたちは学校からでも家からでも、ネット環境に入っていくことができます。

 三つ目は子どもたちの使いこなし力です。日本の子どもがIT機器を使いこなす感度は、非常に優れていると言えますね。

優れていると言いますと?

村井氏:例えば絵文字です。子どもたちのメールを見ると、絵文字がふんだんに活用されています。絵文字に多様な意味を持たせて、メッセージを発信したり受信したりしています。絵文字は英語の文化圏で生まれたものでしたが、それを日本の子どもは新しい表現手段として発展させていきました。

 絵文字だけではなく、写真機能や音楽のダウンロード機能など、新しい機能が出るたびに、上手に自分たちの表現として取り入れています。

先生は2003年から始まった全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)の実行委員長を務めていますよね。子どもたちの学校でITを利用した活動の様子を見て、「これはおもしろい」と感じられた事例にはどのようなものがありましたか。

全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)
日本全国の小学校のホームページを対象とした、日本最大の小学校ホームページのコンテスト。家庭や学校において、小学生たちが積極的にインターネットを利用できる環境作り、リテラシー教育、インターネットの普及を目指し、2003年から開催されている

村井氏:1年間のクラブ活動の様子を単なる記録映像ではなく、自分たちで演じた再現ドラマを映像に撮り、音楽やナレーションをつけるなどの編集をした上でレポートとして発表したグループがいました。とても感動的なスポーツドラマに仕上げていましたね。

 日本の教育ではスピーチやディベート、スキットといった活動がカリキュラムに組み込まれていないために、日本人は表現活動が苦手だとされてきました。けれどもデジタル機器やインターネットを活用できるデジタルコミュニケーション基盤が整ってきたことで、子どもたちの表現力が飛躍的に伸びつつあると実感しましたね。

学校でのインターネット教育の現状はどう評価していますか。

村井氏:ここがおもしろいところで、子どもたちが興味関心を抱いていることに自由に取り組ませている学校ほど成功しています。逆に「大人が指導しなくてはいけない」という姿勢が強い学校は空回りしていることがあります。もちろん基本的な教育プログラムやマナー教育、リテラシー教育は大人が担う必要がありますが、具体的な活用シーンについては子どもにゆだねるほうが、クリエイティブな発想をどんどん伸ばしていくことができます。

 今後の一番の問題は人材面ですね。パソコン室のパソコンの調子が悪くなると、数学の先生が授業を中断して修理に当たっているというようなケースが少なくありません。またインターネット環境の整備はずいぶん進みましたが、それを活用してどのような教育や活動を展開するかについてまで、多くの先生は考える余裕がありません。そこで私は、学校にCIO(最高情報責任者)制度を導入するということを提案しています。CIOがインフラ面での整備から、パソコンやインターネットを活用した教育プログラムの提案までを担うというものです。