今年2月に警察庁より発表された「平成18年のサイバー犯罪の検挙及び相談状況について」のレポートを見ると、ネットを利用した児童買春や児童ポルノなど、子どもがサイバー犯罪の被害者となるケースが年々増加傾向にあることが明らかになった。インターネット空間で、子どもはどんな危険にさらされているのだろうか。警察庁の発表データをもとに、警察庁の生活安全局情報技術犯罪対策課と警視庁のハイテク犯罪対策総合センターに話をうかがった。

デジタルARENAより転載)

インターネット空間に、多くの人が不安を感じるようになっている

 警察庁のまとめによると、2006年のサイバー犯罪の検挙件数は、過去最高の4425件を記録した。前年と比べると約40%増、2001年と比べると約3.3倍も増加している(表1参照)。

表1
警察庁の統計による検挙件数の推移(ウェブサイト「サイバー犯罪対策」より/詳しくはPDF「平成18年のサイバー犯罪の検挙及び相談状況について」を参照)
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 そんな中でインターネットを利用することに、“身の不安”を感じる人も増えているようだ。内閣府が昨年12月に行った「治安に関する世論調査」によれば、「犯罪に遭うかも知れないと不安になる場所」として「インターネット空間」を挙げた人は、「路上」、「繁華街」に次いで多く40.1%もいた(表2参照)。前回調査(2004年7月)の19.1%と比べると倍増している。どうやらインターネットを利用するときには、「路上」や「繁華街」を歩くときと同じような緊張感を持つことが求められる時代がやってきたと言えそうだ。

表2
内閣府が行った「治安に関する世論調査」の不安になる場所の統計(ウェブサイト内閣府ホームページより/詳しくはPDF「図4」を参照)
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 そこで気になるのが、ネットの世界での子どもの安全である。リアルな世界であれば、小学生や中学生が夜の歌舞伎町や六本木などの「繁華街」を一人で歩くことはあまり考えられないし、もし歩いているところを発見されたら補導の対象となるだろう。それに比べてインターネットは、子どもでも簡単に非合法の世界にアクセスできることを特徴としている。しかも子どもの場合、大人と違って「この辺りはいかがわしいから近づかない方がいいな」といった判断をする能力が身についていないため、危険にさらされるリスクはより高くなる。

子どもが性犯罪に巻き込まれるのは、出会い系サイトだけではない

 警察庁のサイバー犯罪のまとめを見ても、子どもが犯罪に巻き込まれているケースはかなり多い。表3は警察が検挙したサイバー犯罪の件数の推移を示したものだが、2006年のネットを利用した児童買春は前年比44.7%増の463件、児童ポルノは84.6%増の251件となっている。2003年9月に施行された出会い系サイト規制法では、出会い系サイトを利用して18歳未満の子どもを援助交際目的で誘う書き込みや、子ども自身が援助交際を申し込む書き込みを禁止している。しかし現実には、ネットを利用した子どもが被害者となる性犯罪は増加傾向にあるのだ。

表3
警察庁の統計によるサイバー犯罪の検挙件数(ウェブサイト「サイバー犯罪対策」より/詳しくはPDF「平成18年のサイバー犯罪の検挙及び相談状況について」を参照)
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 これについて警視庁ハイテク犯罪対策総合センターは、次のように話す。

「子どもが性犯罪に巻き込まれるきっかけは出会い系サイトだけではありません。掲示板やブログ、チャットなどを通じて、異性の大人と知り合う機会はいくつもあります。大人の誘いに乗るだけではなく、子どもの方から積極的に誘っているケースも少なくありませんね。また性犯罪ばかりがクローズアップされがちですが、ネットを通じた出会いは、薬物問題や恐喝など、ほかの犯罪に遭遇するリスクも高めています」(警視庁ハイテク犯罪対策総合センター)

 最近では出会い系サイトだけではなく、多くの子どもが利用しているコミュニティサイトでも、事件が起きている。警察庁の広報資料によると、去年の7月に児童買春・児童ポルノ法違反で検挙された例では、30歳の成人男性が女子中学生を装ってケータイのコミュニティサイトに参加。そこで知り合った25人の子どもに裸体の画像をケータイで送るように指示したうえ、「入手した画像をばらまくぞ」と脅迫して、さらに画像を送信させるといったことが行われていた。「子どもたち同士で利用しているコミュニティサイトだから安心」というわけにはいかなくなっているのだ。

 また今流行の学校裏サイトやプロフについても、トラブルや犯罪の温床となっているようだ。

「警視庁の相談窓口にも、学校裏サイトやプロフに氏名や学校名、顔写真などの個人情報を掲載したために、住んでいる場所を特定されてストーカーにつけまわされたり、ネット上で誹謗中傷や写真の加工をされるといった被害を受けて悩んでいるという相談が数多く寄せられています」(警視庁ハイテク犯罪対策総合センター)