今年に入ってから、中高生を中心に流行している「学校裏サイト」が、わいせつ画像の受発信やいじめの温床になっているとして、にわかにクローズアップされている。子どものインターネット利用の問題に取り組んできた群馬大学社会情報学部大学院研究科教授の下田博次先生は、早くから学校裏サイトの存在を問題視し、調査を続けてきた。その下田先生に学校裏サイトを中心とした子どものインターネット利用の実態と、そうした現実に親はどのように向きあうべきなのか、話を聞いた。

デジタルARENAより転載)

自分の裸をケータイカメラで撮影して、サイトに掲載する女子中高生

中高生の間で流行っている学校裏サイトが、子ども同士の誹謗中傷やわいせつ画像のやりとりの場になっているとして、社会問題化しています。先生はこの問題に以前から取り組まれていたそうですね。

「深刻となっているのは子どもたちが有害情報の発信者となり、情報のやり取りが行われていること」と語る下田先生

下田氏:学校裏サイトの存在に注目して追跡調査を行うようになったのは、約2年前からです。「すごいことが始まった」というのが率直な感想でした。

 学校裏サイトというのは、学校の公式サイトとは別に、子どもたちによって立ち上げられた学校内の情報交換を目的としたサイトです。この中では学校行事や定期テストの情報交換など、中高生らしいやりとりもされているのですが、それだけではありません。「3年A組の○○はきもい」とか「○○は死んでよし」といったかなりきつい誹謗中傷やデマが、実名を挙げて書き込まれていたりします。あと多いのが、わいせつ画像です。女の子が自分の裸をケータイカメラで撮影して、「見てね」と掲載するようになった。大人にとっては、にわかに信じがたいことがサイトの中で起きています。

学校裏サイトは、全国でどれぐらい広がっているのですか。

下田氏:これは私たちの研究室の推計なのですが、だいたい1万5000の学校裏サイトが存在していると考えています。決して一部の子どもたちの間で行われていることではないんですね。

 これまで有害情報というと、大人が有害情報の発信者で、子どもはその被害者という構図で捉えられてきましたよね。けれども今深刻な問題となっているのは、子ども自身が有害情報の発信者になっていて、子ども同士で有害情報のやりとりをしているということなんです。

学校裏サイトで誹謗中傷を書き込まれた子どもの精神的ショックは、計り知れないものがあるでしょうね。同じ学校に通っている誰かが、悪意を持って掲示板に書き込みを行うわけですから。

下田氏:一度誹謗中傷やうわさが流れると、その情報が事実かどうかに関係なく、クラスメートや部活の仲間など周囲に知られてしまいますからね。書き込みが多くの人の目にさらされるため、集団的ないじめに発展しやすいという問題があります。

インターネット機能付きのケータイを子どもに持たせているのは日本だけ

どうしてこのような現象が起きるようになったのでしょうか?

下田氏:私は一番の責任は、大人が子どもにケータイを安易に与えたことにあると考えています。

 子どものネット利用は、ほとんどがケータイを使って行われています。ケータイからのネット利用が、パソコンによるネット利用と一番違うのは、大人の目が届きにくいところです。パソコンであれば画面が大きいし、家族で共用している場合が多いですから、子どもがネットを使ってどんな情報に接しているか管理できますよね。本当のところはそれさえも大変なのですが……。

 ところがケータイだと、子どもが夜中に部屋の中で掲示板に何を書き込んでいるか、チェックのしようがありません。同じ問題は学校でも起きていて、先生の授業がおもしろくなければ、授業中でも机の下で指を動かして「あいつの授業つまんねーよ」とメールを打つことができるし、ケータイサイトでマンガを読むこともできます。昼休みにはトイレの個室で出会い系サイトにアクセスすることだってできる。つまり親や教師の見守りが、非常に難しいツールなんです。

だから子どもは親も教師も知らないところで、同級生の悪口やエッチな話題で盛り上がることができるわけですね。

下田氏:思春期は性への関心が非常に強くなる時期です。そのときに学校裏サイトの中でわい談が起きるのは、ごく当然の現象です。男の子が「女の子の裸が見たい。見せてよ」と書き込めば、「いいよ」と応じる女の子が出てきます。また子どもは、インターネットを使いこなす上で必要とされる判断力や自制心、責任感を身に付けていませんから、人の心をずたずたに傷つけるような誹謗中傷を軽い気持ちで書き込んだりします。

 ですから繰り返しになりますが、一番の責任はそういう有害性の高い情報の受発信が簡単にできるツールであるケータイを、安易に子どもに与えた大人側にあるのです。

ケータイを使った子ども同士による誹謗中傷やわいせつ画像のやりとりといった問題は、ほかの国では起きていないのでしょうか。

下田氏:起きていません。そもそもインターネット機能付きのケータイを子どもに持たせているのは、世界の中でも日本だけです。インターネット先進国と言われているアメリカの家庭でも、子どもに使わせているのはパソコンのみです。しかも最初はフィルタリングソフトをかけ、ルールや判断能力を身に付けてから徐々にフィルタリングを外すようにしています。

 ですから海外の研究者は、日本の現象をいぶかしく思っています。私もよく海外の知人から、「あんな道具を自由に子どもに使わせているなんて、日本の子どもは生まれつきリテラシーがあるんだね」と皮肉を言われます。なにしろ日本の場合、子どもにケータイを自由に与えているだけではなく、そのケータイにフィルタリングさえかかっていないというケースが一般的でしたからね。国の要請を受けて、携帯通信会社がフィルタリング機能の強化に取り組み始めたのは今年に入ってからです。ケータイをめぐる日本の子どもの現状がここまで深刻になったのは、携帯通信会社の責任も大きいと言わざるを得ませんね。

携帯通信会社各社は、「安心・安全」というキャッチフレーズでキッズケータイやジュニアケータイを出していますが……。

下田氏:学校裏サイトへの書き込みは、キッズケータイなどからでも可能です。現に子どもたちはこれらのケータイを使って、自分の裸の画像を発信している。「キッズケータイだから安心」というのは親の幻想に過ぎません。