■商談や開発の打ち合わせで重要になるのがヒアリング。上手なヒアリングのためには、質問力を高めなければいけません。質問力を高めるための具体的な方法論として、今回は相手が心地良く思う質問のやり方を紹介します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 ヒアリングとは「質問攻め」とも言える。

 前回のお話のように医師の問診であれば、聞かれる側に目的があるので、少々ぞんざいな聞き方で質問攻めにされても問題はない。警察の尋問も基本的には同じだ。

 しかし、商談などのヒアリングでは、聞き手はあくまで協力してもらう立場だ。質問攻めにして、こちらの聞きたいことを何でもしゃべってくれるとは限らない。

 相手から情報を引き出すときに、必要なのは、聞かれる立場として心地良いかどうかと、答えることで報酬があるかどうかだ。

 質問攻めにしながら、心地良いとは、質問攻めと思わせないことだ。すべての質問が、「~ですか?」という質問句だと、尋問のようで心地良くない。聞き方のちょっとした配慮で質問を質問と思わせないようにするのだ。

質問ではなく、水を向ける

 質問には、回答の範囲を制限せずに聞くオープン質問と、選択肢を示したり、YESかNOで答えさせたりするクローズ質問がある。

 オープン質問はけっこうクセ者で、いきなり「課題は何ですか?」と聞かれても、大ざっぱすぎて答えようがなかったり、オープン質問を連発されると、聞き手の工夫のなさを感じて答える気がしなくなったりする。

 一方、クローズ質問は核心に迫るために重要なのだが、聞き方次第では、ネチネチと細かい尋問のように聞こえる。

 私は、オープン質問では質問句を使わずに「水を向ける」ことで相手から自然に話を引き出し、クローズ質問で具体的にフォーカスしていく、ということを交互に使い分ける工夫をしている。

 例えば、このような具合だ。ナレッジマネジメントシステムを導入したが、あまりうまくいっていない企業に訪問した場合のケースである。

「最近、ナレッジマネジメントシステムを導入されたそうですね。導入された企業には、運用で課題が多いとも聞きますが・・・」(課題は何ですか?というオープン質問の言い換え)
相手 「うーん、うちでも有効活用されていないんだよね」
「なるほど。有効活用と言った場合、それは、情報の書き込みが少ないのか、閲覧数が少ないのか、有効活用された事例が少ないのか、どういう状態なのでしょうか?」(選択肢を示したクローズ質問)
相手 「情報の書き込みが圧倒的に少ないよね」
「そうですか。そういうケースは多く聞きます。書き込みを増やすように各社さんいろんな工夫をやっておられるようですね」(どんな工夫をしていますか、というオープン質問の言い換え)
相手 「活用促進の広報をしたりとか、インセンティブを設定したりとか、いろいろと工夫はしてるんだけどね」
「インセンティブについてですが、ある企業では、書き込みの多い人に報奨金を出すという制度を設けているそうです」(事例を出すことによって、インセンティブの中身を聞き出すオープン質問の言い換え)
相手 「うちでは、閲覧数の多い人にランキングをつけたりして、モチベーションアップにつなげるようにしているんですよ」
「それは効果がありそうですね。実際にはどうですか。書き込み数が増えたり、書き込む人が増えたりしましたか?」(効果について定量的に考える指標を示すクローズ質問)
相手 「いつも書いている人の書き込みは増えたけど、書かない人はやっぱり書かないんだよね」
「やはりそうですか。そういう人に書いてもらうためにはどうすればいいんでしょうかねえ・・・」(と、自ら悩んで見せて、相手の意見を引き出すオープン質問の言い換え)

 このように、実はオープン質問とクローズ質問を交互に繰り出しているのだが、オープン質問はできるだけ質問句にならないように、ただ水を向けるという感覚で、自然に相手から情報を引き出すように工夫している。

 こうすると、相手は質問攻めにされている、という印象を受けずに、スムーズに会話のキャッチボールができる。

 「ヒアリングせよ」と言われると、どうしても質問攻めにしてしまう人が多い。実際には質問攻めなのだが、表現を工夫することで、相手にとって質問攻めと感じさせないことが重要だ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。