OSやミドルウエアと連携するためにも,ユーザーに使い勝手のよいシステムを提供するためにも,他社のプログラムのインタフェース情報やユーザー・インタフェースを参考にすることは多い。では,こうしたソフトの「インタフェース」は,著作権法で保護されるのだろうか。

  グループウエア・ソフト「サイボウズ Office」を開発・販売しているサイボウズが,ネオジャパン(神奈川県横浜市)のグループウエア・ソフト「iOffice2000バージョン2.43」と「iOfficeV3」の中で,サイボウズ Officeの複数の画面表示を無断で複製していると主張,これを差し止める仮処分命令を求める申立を行うとともに,差止めなどを求める民事訴訟を提起した。これに対しネオジャパンは,「サイボウズ Officeの画面表示は単なる機能的アイデアまたは極めてありふれたもので創作性が認められず,著作権法によって保護されるものではない」と反論した。

 仮処分事件を担当した裁判所はまず,サイボウズ Officeが画面の機能を直感的に把握することを容易にするために1つの機能に必ず1画面を与えるなど,個性的な選択・配列方法を採用していることから,画面表示の著作物性を認めた。

 次に,サイボウズ OfficeとiOfficeの画面表示を比較・検討し,「iOfficeV3」の画面表示にはサイボウズ Officeとの類似性が感じられるが,視覚的な相違があることから著作権侵害とは断定できないとした。しかし,「iOffice2000バージョン2.43」はサイボウズ Officeの画面表示を翻案したもので,著作権を侵害していると認定したうえで,送信,頒布,ライセンスを禁止する仮処分命令を2001年6月に発した。(東京地方裁判所2001年6月13日決定,判例時報1761号131頁)

 これに対し,民事訴訟を担当した裁判所は,一般論として表示画面が著作物として保護される可能性は認めたが,(1)両社のソフトの表示画面間で共通する点はソフトの機能に伴う当然の構成か同種のソフトに見られるありふれた構成であり創作性がない,(2)サイボウズOfficeの各表示画面の集合体としての全画面の選択・配列についても創作性はなく,ネオジャパンのソフトの表示画面の選択・配列はサイボウズのものと異なっている,という理由でサイボウズの請求を棄却した。(東京地方裁判所2002年9月5日判決,判例時報1811号127頁)

 今回は著作権に関する最後のテーマとして,主に画面のユーザー・インタフェースを取り上げる。ユーザー・インタフェースの設計は,エンドユーザーの操作性の善し悪しを左右するきわめて重要な要素である。しかし他社が作成した優れたユーザー・インタフェースを,自社のソフトに安易に取り込むのは避けなければならない。先発メーカーはユーザー・インタフェースの開発に多大の努力と費用をかけている。そのユーザー・インタフェースに著作物性があれば,著作権侵害で訴えられることになるからである。

 半面,同じ機能を実現するソフトの場合,ユーザー・インタフェースが似てしまうことがあるのも事実。また映像性の高いゲーム・ソフトなどと違って,ビジネス・ソフトは画面がシンプルな分,著作権侵害か否かの判断は,難しくなる。

アイデアか,表現か

 ユーザー・インタフェースをめぐる訴訟では,著作権侵害で訴えられた「被告」(仮処分事件では「債務者」と呼ぶ)が「原告の画面表示はアイデアにすぎず,著作権法が保護する創作性のある表現とは言えない」と主張することが多い。

 アイシー企画ソフトウェアハウス(東京都中央区)が,同社の建築積算ソフト「積算くん」の画面表示の著作権をコムテックなどが販売する建築積算ソフト「WARP」に侵害された,として訴えた建築ソフト「積算くん」事件でも,被告は「ビジネスソフトの表示画面は,文字数や色数などに制限があり,ユーザーの学習や操作を容易にしなければならないことから,より効率の良い操作方法へ向かう共通の方向性があり,創作性を持ち得ない。積算くんの表示画面も,各種書式に依拠したありふれたものであり,本質的に創作性がない」と主張したこの事件では,裁判所は原告の画面表示はアイデアにすぎず,創作性がないと判断して著作物性を否定した(大阪地方裁判所2000年3月30日判決,別冊ジュリスト157号62頁)。

 ほかにも,ユーザー・インタフェースを巡る係争は少なくない。例えば,MacintoshとWindowsの画面にある「ゴミ箱」の見た目はかなり違う。Windowsの初期版ではMacintoshによく似ていたのだが,米アップルコンピュータと米マイクロソフトの間であった著作権紛争の結果,マイクロソフトが現在の見た目に変更した。「たかがゴミ箱のアイコン」とは言えないのである。

 著作物性の有無は何が基準になるのか。それは「単なるアイデア」か「創作性のある表現」か,ということだ。しかし,この境目が非常にあいまいなのも確かである。

 先発メーカーの製品と画面表示を変えようとするあまり,操作性が悪くなっては元も子もない。逆に「どうせ大した違いはない。色を変える程度で印象は変わる」として,デッドコピーに近い行為をするのは論外だ。結局は,個別ケースごとに具体的に検討するしかない。少しでも疑問を感じたときは,社内外の法律専門家に相談すべきだろう。

「規約」は保護されない

 一方,ソフトのインタフェース情報,つまりAPIについては答えは明解だ。APIそのものは,著作権では保護されない。

 その根拠は,著作権法第十条にある。この条文では,プログラム言語や規約,解法(アルゴリズムのこと)は,著作権法で保護されないことを明記している(図1)。ここでいう規約とは,ソフト間のインタフェース情報やプロトコルを意味している。したがって,OSやミドルウエア・ソフトとアプリケーション・プログラムとの接続部分であるAPIは,著作権法では保護されないことになる。

図1●プログラム言語,既約,解法は保護されない,とした著作権法の条文
図1●プログラム言語,既約,解法は保護されない,とした著作権法の条文

 このようにインタフェース情報自体はアイデアにすぎなくとも,それを実装したプログラム部分は,当然のことだが表現として保護される。無断で複製すると,著作権違反になることは,本誌読者には自明だろう。

 同じことは,プログラム言語にもあてはまる。COBOLというプログラム言語やその文法自体は「アイデア」なので保護されないが,COBOLの文法書は,文章表現として保護されることになる。

 次回は,ITプロフェッショナルに要求される機密保持義務に関する法律を解説する。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事