高速電力線通信(PLC)製品が充実してきた。HD-PLC仕様に加えて,ロジテックと米ネットギアがUPA仕様に準拠した製品を投入。両タイプのモデムを実測したところ,UPA準拠モデムがHD-PLC準拠モデムより最大約10Mビット/秒ほど速かった。ただし混在環境では,どちらも十分な速度を出せなかった。

 2007年5月20日時点で,店頭に出回っている主なPLCモデムの仕様は二つある。一つは,松下電器産業が開発した物理速度190Mビット/秒の「HD-PLC」。主に家庭向けの製品として,パナソニック コミュニケーションズ(PCC),アイ・オー・データが製品化している。もう一つは,スペインのDS2社が開発した「UPA」である。企業向けの製品としてNECグループの東洋ネットワークシステムズ,住友電気工業などが出荷しているほか,この5月にはロジテックと米ネットギアが家庭向けの製品を投入。店頭販売も始まっている。

 HD-PLCとUPAに互換性はなく,それぞれの信号がノイズとなる。そこでこの2仕様に準拠するPLCモデムの実効速度と,混在時にどの程度速度が低下するかを実測した。測定機はHD-PLC準拠のPCC製モデム「BL-PA100」(2006年12月出荷)と,UPA準拠のロジテック製モデム「LPL-TX」(2007年5月出荷)である。

 測定環境は,50m2の集合住宅である(図1)。ポイント(1)のコンセントにつないだPLCモデムに測定用サーバーを設置し,そのサーバーとPLCモデムにつないだ測定用クライアントの間でTCPスループット,およびWindowsのファイル共有のデータ転送速度を測った。この際,測定用クライアントをつないだPLCモデムを差し込む場所をコンセント(2)~(8)と変えた。

図1●高速電力線通信(PLC)モデムの測定環境
図1●高速電力線通信(PLC)モデムの測定環境
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実効速度は最大72.5Mビット/秒

 TCPスループットでは,総じてLPL-TXが優勢だった(図2)。最も結果が良かったポイント(5)では,BL-PA100の最大60.9Mビット/秒に対して,LPL-TXは72.5Mビット/秒と10Mビット/秒ほど速い。

図2●コンセント別のTCPスループット
図2●コンセント別のTCPスループット
米ヒューレット・パッカードのベンチマーク・ソフト「Netperf」でTCPスループットを3回測定した平均値。
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 一般に家庭用の電力線は「単相3線式」と呼ばれる方式で,分電盤で大きく2系統に分かれている。違う系統の電力線では信号が減衰するため,速度が落ちる。今回の測定環境で系統が異なるのは,ポイント(7)と(8)。ここでもLPL-TXがBL-PA100を2M~8Mビット/秒ほど上回った。

 Windowsファイル共有のテストでも大きな傾向は変わらない。ただし,その速度差はやや縮まった(図3)。ファイル共有時に使われるSMBプロトコルは,64Kバイト未満の比較的短いブロック・サイズでデータをやり取りするので遅延の影響を受ける。調べたところ,LPL-TX,BL-PA100ともに4~10ミリ秒の遅延があった。この分だけスループットが頭打ちになり,速度差が縮まったようだ。

図3●良環境下/悪環境下におけるWindowsファイル共有のスループット
図3●良環境下/悪環境下におけるWindowsファイル共有のスループット
図1の測定結果で最高値,最低値を記録したコンセントに子機を接続し,16Mバイトのファイルの読み書きを3回測定した平均値。

混在環境では5M以下も

 混在時の速度低下を見るテストでは,最も結果が良かったポイント(5),最も悪かったポイント(7)のそれぞれで,LPL-TXとBL-PA100を同時接続して通信してみた。

 結果はLPL-TXとBL-PA100とも,速度が乱高下する結果となった(図4)。最大60Mビット/秒超を叩き出していたポイント(5)だが,最大十数Mビット/秒と激減。テストを繰り返すと,5Mビット/秒前後にまで落ち込んだ。

図4●良環境下/悪環境下におけるUPAとHD‐PLCの同時通信時のTCPスループット
図4●良環境下/悪環境下におけるUPAとHD‐PLCの同時通信時のTCPスループット
図1の測定結果で最高値,最低値を記録したコンセントに子機を接続し,「Netperf」のTCPテストを3回測定した平均値。

 明確な差が出たのは悪環境のポイント(7)。BL-PA100が1Mビット/秒も出ず,リンク切れを起こした。LPL-TXがその帯域を奪う形で,約15Mビット/秒まで値を伸ばしている。追試をしても傾向は同じだった。