QoS提供の鍵を握るRACF

トランスポート制御機能はリソース&アドミッション制御(RACF)とネットワーク・アタッチメント制御機能(NACF)から成る。機能詳細は本連載の第7回で述べる予定だ。ここではRACF/NACFの機能を簡単に記述する(図4)。

図4●トランスポート・ストラタムのRACF,NACFの機能
図4●トランスポート・ストラタムのRACF,NACFの機能
トランスポートの機能を他の機能と結びつけるための重要な役割を担う。
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 RACFは,アクセス網とコア網のリソース予約,アドミッション制御,QoS制御,NAPT/ファイアウォール(FW)制御を行う。

 アドミッション制御では単なるユーザー認証ではない複雑な機能を提供する。例えばユーザー・プロファイルに基づいて個々の通信を通したりブロックしたりする。また,SLAや,通信事業者の運用ポリシー,サービスの優先度,といったものもここで検査され,これらを考慮してアクセスおよびコア・トランスポートのリソース使用の可否を判断する。

 ここで,通信事業者の運用ポリシーとは,通信事業者が定めたネットワークの運用方針ともいえるものである。例えば,ある経路が混雑している際に,その経路を使いたいという要求がユーザーから到着した場合,拒絶するか,別の経路を探索するか,などをあらかじめ決めておく。

 NGNアーキテクチャにおいて,RACFはサービス制御機能群とトランスポート機能群の間で,リソース交渉や割り当ての調停も行う。このように,RACFは他の機能群とさまざまなやり取りをする。例えば,NGNの上で電話をかける際,一定の通話品質が維持されるようにトランスポートでリソースを確保する。また,ビデオ・ストリーミングなどのセッション・ベース・アプリケーションのために,サービス制御機能群やトランスポート機能群とやり取りする。

 RACFはパケットを直接処理するのではなく,どのようにパケットを処理したらよいかを決め,トランスポート機能にその結果を伝える。RACFがトランスポート機能群の制御のために送る情報には,(1)パケット・フィルタリング,(2)トラフィック識別とマーキング,(3)ポリシング,(4)プライオリティ処理,(5)帯域予約と割り当て,(6)ネットワーク・アドレスとポート変換,(7)FWなどのトランスポート機能の制御,などがある。さらに,RACFはユーザー・プロファイルやSLAを検査するためにNACFとやり取りする。

ユーザーのアクセス認証を行うNACF

 一方のNACFはNGNサービスにアクセスするために,アクセス・レベルでの登録とエンドユーザー機能の初期化を行う。ネットワーク・レベルの識別と認証,アクセス網のIPアドレス空間の管理,アクセス・セッションの認証も担当する。NACFにはその後続手続きに必要な機能要素のコンタクト先を知らせる役割もあり,例えばDNSサーバーやシグナリング・プロキシのアドレスやNGNサービス/アプリケーション・サポート機能のコンタクト先を知らせる機能を持つ。

 NGNサービスにアクセスするために,NACFはアクセス・レベルの登録とエンドユーザー機能の初期化を行う。つまり,ネットワーク・レベルの識別と認証,アクセス網のIPアドレスの管理,アクセス・セッションの認可を行う。

 具体的には以下のような役割を実行する。(1)IPアドレスとユーザー機器の構成パラメータを動的に提供,(2)ユーザー機器の能力と他のパラメータを自動検出,(3)IPレイヤーにおけるユーザーと網の認証,(4)ユーザー・プロファイルに基づきネットワーク・アクセスを認可,(5)ユーザー・プロファイルに基づき適切なアクセス・ネットワークに接続されているかを確認,(6)IPレイヤーにおける位置管理。

 NACFはトランスポートに関連するユーザー・プロファイルを持つ。ユーザー・プロファイルにはユーザーがどのようにサービスを受けたいかを示すデータが書き込まれている。例えばQoSに関する要求やホーム・ゲートウエイのファイアウォール設定情報などが登録されている。

五つの機能でNGNを管理

 NGNサービスで期待される品質・セキュリティ・信頼性を実現するためには,NGNの各機器だけでなくネットワーク全体を管理する能力が必要だ。この役割を担うのがマネジメント機能である。図1では便宜上マネジメント機能を一つの箱で表したが,実際には各機能要素が相互に情報を交換し合いNGN全体を管理する。例えばネットワークのどこが混雑しているか,どこが故障しているかを把握するには各機器が周辺の情報を収集する必要がある。管理の対象は,次に示す頭文字「FCAPS」で,これらの管理機能はトランスポート・ストラタムだけでなくサービス・ストラタムにも適用される。

・障害(Fault)管理

・構成(Configuration)管理

・課金(Accounting)管理

・性能(Performance)管理

・セキュリティ(Security)管理

 上記の課金管理には,ネットワーク・リソースの使用状況の観察に基づく課金の起動,課金データの記録,リソース利用の許可などの機能が含まれる。

トランスポートを構成する機器

 NGNのトランスポート・ストラタムに相当するトランスポート・ネットワーク層は,図5に示すように,ルーター網,光コア・メトロ網,アクセス網(モバイル&ワイヤレス,ブロードバンド・アクセス)の三つに分類できる。各メーカーは,それぞれについてさらなる高速・広帯域化,機能の拡充,経済化を進めている。

図5●トランスポートの機能を実現するための実際の機器群
図5●トランスポートの機能を実現するための実際の機器群
アクセス,光コア・メトロ,ルーターの3段階に分かれるのが一般的。
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 次世代ネットワークでは,ほとんどすべてのトラフィックがIPで転送される。ITU-TのNGNでもトランスポート・コアは基本的にIPで情報を転送する。これをつかさどるのはルーターである。特にネットワークの出入り口に配置されるルーターは,単にIPパケットを所定のあて先に転送するだけでなく,QoSを提供するためのマーキングやポリシングなどの機能を持たせるのが一般的になってきている。

 一方,コア・ルーターでは高い性能が必要である。富士通では米シスコシステムズと共同でCRS-1を開発・販売している(写真1)。

写真1●コア・ルーターとWDM装置の例
写真1●コア・ルーターとWDM装置の例
富士通とシスコが共同開発したコア・ルーターのCRS-1と富士通のWDM装置FLASHWAVE 7500X。

 IPレイヤーの下位を支えるトランスポート機器には,拡大するトラフィック需要を支えるべく光伝送技術の導入が必須となる。光コア・メトロ網は,陸上,海底を含めてWDMシステムを中心に,MSPP(multi-service provisioning platform)やイーサネット・トランスポート・システムで構成する。光のレイヤーで大容量トラフィックの振り分けを行い,広域にわたる情報転送を経済的に行う。

 アクセス網は,有線,無線を含め多様化が進んでいる。有線アクセスでは光ファイバが主流であり,GE-PONG-PONで構成する。無線アクセス分野では,W-CDMA方式の基地局や基地局制御システムのほか,WiMAXのような新しいワイヤレス・アクセス技術にも取り組んでいる。アクセス手段が多様化する一方で,これらにまたがるシームレスな通信環境を実現するニーズも海外で顕在化しており,これに対応して,複数のアクセス手段を統合的に収容するMSAN(multi service access node)システムも提供している。

 光アクセス装置に加え,昨今需要が増加しているのは,ユーザー宅内に置かれるアダプタが進化し,ユーザーが様々なネットワーク・サービスを享受できるようにしたホーム・ゲートウエイである。これはトリプルプレイを提供する宅内装置というだけでなく,家電なども含めた家庭内の様々な機器をネットワークに接続して新しいサービスを創出するキーデバイスとなるため,各社ともその開発を急いでいる。

運用管理が重要なポイント

 これからのICT分野ではオペレーション・コストの削減や新たな利活用による収益源の創出を目指した様々なコンバージェンスが起こるため,その管理は複雑化する。従って,運用負荷をいかに軽減できるかが重要なポイントとなる。つまり,運用の自動化を助けるネットワーク運用管理システムが求めらる。詳細は第7回で記述するが,ネットワーク全体の最適で安心・安全の運用を実現するため,トランスポート・ストラタムにおいても,各装置個々の管理だけでなく,障害発生時の迅速な回復処理を含む統合運用管理が必要になる。

 NGNは「IPをベースとするより堅固なネットワークの仕組みを基盤として,安心して利用できる情報サービス環境を提供する」ものである。その中でトランスポート・ストラタムは底辺に位置し,その上に構築されるプラットフォームやアプリケーションを支える。

 本編では,トランスポート技術への要求条件を整理した後,ITU-T勧告で規定されたトランスポート・ストラタムの機能の概要を説明し,さらにそれらの機能を具現化する機器にどのようなものがあるかを紹介した。次回以降,アクセス・ネットワークとホームゲートウエイ,大容量伝送技術(WDM),IPプラットフォーム,トランスポート制御機能(RACF/NACF)と管理機能という順で解説していく。

野島 聡(のじま・さとし)
富士通研究所ネットワークシステム研究所 所長代理
1978年,早稲田大学電子通信学科修士課程修了。同年富士通研究所入社。マルチメディアパケット通信技術の研究開発に従事。1994年よりパケット通信技術,パケット・スイッチング技術の研究に従事。2006年6月より現職。