プロジェクト内の各チームは互いに遠慮している場合が多く,これが対面コミュニケーション不足を引き起こす一因となっている。チーム間の壁を壊し,対面コミュニケーションを増やすためには,PMOがファシリテーション能力などを発揮する必要がある。それは,コミュニケーションを一変させるほどの効果を生むかもしれない。

川上愛二
マネジメントソリューションズ マネージャー


 プロジェクトを進めていくと,「チーム間の風通しが悪い」「コミュニケーションが取れていない」という問題がしばしば起こります。特に,大規模プロジェクトでチームが多数存在する場合や複数ベンダーでプロジェクトを進めている場合は,必ずと言っていいほどコミュニケーション不足の問題に直面するのではないでしょうか。

 例えば,ユーザー側で追加要件が発生し,自チームだけでなく他チームにも影響が及ぶ場合,他チームへ影響分析を依頼しなければなりません。このとき,メールで依頼するだけで済ませているケースがよく見受けられます。

 確かに,プロジェクトにはスケジュール・期限がありますので,すばやく追加要件を依頼して,さばいていくことが求められます。また,関係メンバー全員に同じ内容を伝える手段としてメールは有効です。

 ですが,メールだけでは認識のズレ(とそれに伴う品質低下)が発生することを,誰もが経験しているでしょう。会話が少ない“静かな現場”に,不安を覚えるマネジメント層も多いと思います。

本当は対話の必要性を感じているのに,遠慮してしまう

 では,なぜ,メールへの依存体質は改善されないのでしょうか。筆者は,“遠慮”と“面倒”というチームメンバーの気持ちが原因の1つだと考えます。

 先の例では,「この程度の軽い追加要件で,多忙を極める各チームを集めて会議を開催するのは申し訳ない」という遠慮の気持ちが起こりやすいものです。また,関係チームが多かったり,他社メンバーと相談したりしなければならないときに,「あまり面識がない他チームのメンバーと打ち合わせるのは煩わしい」という面倒臭さが,心の中でむくむくと頭をもたげてきます。こうした気持ちがメンバーを会議などの対面コミュニケーションから遠ざけ,メールでの伝達で済ませてしまうのだと思います。

 そこで,1つの打開策として,「PMOが会議をファシリテートする」ことが挙げられます。軽い追加要件であっても,少しでも懸念すべき点があるなら,会議を開催し,資料には書かれていないリスクを共有すべきです。初対面のメンバーとの打ち合わせなどでは,お互い緊張してしまうものですが,PMOが間に入ってフォローすれば,コミュニケーションを円滑にできるはずです。

 関係チームが多数の場合や作業場所が離れている場合なら,なおさらPMOが会議をアレンジすべきです。会議時間,場所を調整する手間をなくすことで,会議の開催者(追加要件が発生したチームのメンバー)は会議に集中できるようになります。

PMOがお膳立てすれば,コミュニケーションは一変する

 筆者の経験上,会議前は各メンバーとも乗り気ではない場合でも,会議が始まると,いろいろな課題が出てきますし,それに伴い要件の深堀りや精査が進みます。また,メールでは簡単な質問をしづらいものですが,対面コミュニケーションであれば気軽にできます。確認程度の簡単な質問が,意外と重要だったりするものです。

 会議が終わったときには,「ちょっとしたことでも,関係チームが集まって課題を確認できてよかった」「こういうミーティングをプロジェクトの初期段階から,どんどんやっているべきだった」などの言葉を頂いたことがしばしばあります。また,会議後もなかなか自分の席に戻らず,別要件の話を続けている光景を見ると,プロジェクト内のコミュニケーションが不足していたことを痛感すると同時に,ちょっとした工夫でコミュニケーションは一変するのだなと実感しました。

 とかくプロジェクトの初期では,チーム間の壁も高く,会議などの対面コミュニケーションを敬遠しがちです。ただ,先に挙げた「この程度の軽い追加要件で,多忙を極める各チームを集めて会議を開催するのは申し訳ない」とか,「あまり面識がない他チームのメンバーと打ち合わせるのは煩わしい」という感情の裏には,「時間があれば,追加要件の背景など,詳細内容を説明しておいたほうがいいんだが…」「会議は面倒だけど,メールだけで伝わるかどうかは不安だ…」といった思いがあることも見逃してはいけません。

 PMOは,チームメンバーがこのように心の奥で感じている前向きな気持ちを察して,背中を押し,支援することに気を配りましょう。


川上愛二(かわかみ あいじ)

 大学卒業後,独立系SIコンサルティング会社のシーアイエス(現ソニーグローバルソリューションズ)に入社。グローバルSCMシステム開発などの大規模プロジェクトを経験。

 現在は,コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズに在籍。各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp