爆発的に広まった「Web 2.0」――。巷では,「Ajax」や「マッシュアップ」,「ブログ」などの用語であふれ,これらを実装したWeb2.0サイトも増えています。しかし,単にWeb2.0サイトにアクセスして使うだけでは,真の意味でWeb2.0を体験したとはいえないのではないでしょうか。Web2.0技術は,サイトを構築して初めてその本質が分かるからです。

そこで本連載では,GoogleやAmazonのWebサービスのAPI,Ajax,RSS,そしてRuby on Railsなどを題材に,Web2.0サイトをLinuxで自作します。本記事の通りに実行すれば,Webサイトを全く作ったことがなくても簡単にWeb2.0サイトが構築できます。

 多くのメディアで「Web 2.0」という言葉が使われています。この言葉,よく聞く割に「これがWeb 2.0だ」というほど確固たる定義はありません。しかし,基盤となる技術は明確です。Web2.0を代表する技術は,RSS,Ajax,Webサービス,そしてRuby on Railsです。

ミクシィもGoogleも「Web2.0」のワケ

 Web2.0という単語が初めて登場したのは,2004年です。出版社の米OfReilly Media社が開催したカンファレンスの中で「新しい時代のインターネット・ベースのアプリケーション全般を指す単語」として使われました。そのため,何か特別な技術を指すわけでなく,使う人によって「Web 2.0」の定義が変わってくるのです。

 このWeb 2.0という言葉を最初に使ったOfReillyの社長,Tim OfReilly氏は,自社のWebサイトで,Web2.0の条件として次のような7つの項目を挙げています。

1)プラットフォームとしてのWeb
2)集合知の利用
3)データは次世代の「インテル・インサイド」
4)ソフトウエア・リリース・サイクルの終えん
5)軽量なプログラミング・モデル
6)単一デバイスの枠を超えたソフトウエア
7)リッチなユーザー体験

 ただ,これを網羅しているものがWeb 2.0アプリケーションというわけではなく,「このうち当てはまるものが多いほど,Web 2.0と呼ぶのにふさわしい」と氏は主張しています。

 さて,日本でWeb 2.0といえば,SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のミクシィ(mixi,写真1) を思い出す人が多いのではないでしょうか。

写真1●SNSサイト「mixi(ミクシィ)」
写真1●SNSサイト「mixi(ミクシィ)」

 確かにミクシィはWeb2.0です。上の項目でいえば,3番の『データは次世代の「インテル・インサイド」』と,4番目の『ソフトウエア・リリース・サイクルの終えん』に当たるからです。これまで米Intel社がPCの心臓部であるCPUを提供することで支配的な立場を得ていたのと同じように,Web2.0では,データ(情報)を持つことが重要になるというわけです。ミクシィなどのSNSサイトには,さまざまなユーザーが情報を書き込みます。

 また,ミクシィは500万人を超えるユーザーを抱えており,有料サービスも展開しているのに,未だに「ベータ」状態であるとよくいわれます。これは,従来のWebのように,完全なバージョンをユーザーに提供するのではなく,ユーザーの反応を見て,少しずつ機能をリリースしていくという方法を取っているからです。

 日本では,携帯電話向けのWeb技術が発達しています。このため,『単一デバイスの枠を超えたソフトウエア』については,既に多くのサイトが対応しています。さらに,PLAYSTATION 3やPSP,Nintendo DSなど近年発売されているゲーム機のほとんどにインターネットへの接続機能が付いているので,今後はこういったデバイスへの対応もWeb 2.0アプリケーションの柱になっていくのかもしれません。

 世界に目を向けると,Web2.0の代表として真っ先に挙がるのは,検索エンジンのGoogleと,オンライン・ショップのAmazonでしょう。

 Googleは1の『プラットフォームとしてのWeb』として,検索エンジンのみならず,WebメールのGmail(写真2)や,カレンダー・サービスのGoogleカレンダーなどのアプリケーション・サービスも提供しています。これらは,後述する「Ajax」(エイジャックス)と呼ばれるJavaScriptのテクニックを使っており,7に適合します。

写真2●GoogleのGmail
写真2●GoogleのGmail

 Amazonでは,書評をユーザーが書き込めるようになっていますが,これは2の『集合知の利用』の最たるものの一つです。ユーザ一人ひとりが自分の知識(この場合は書評)を書くことで,サイトの価値が高まり,同じ商品を扱っているサイトより多くの人が集まるようになります。

 さらに,この書評があるからAmazonに人が集まり,その人がまた書評を書くというサイクルが起こり,どんどん情報が集積されていくのが,集合知です。

 Amazonは,独自に売り上げランキングを付け,それを検索結果にも反映しています。そのため,人気のある書籍を検索結果の上位に表示させるといったこともできます。ユーザーにとって,探している情報が見つけやすいという仕組みになっています。

 Amazonでは「アソシエイト」(アフィリエイトとも呼ぶ)という,広告モデルも提供しています。これは一般のユーザーが自身のブログなどでAmazonにリンクを張り,そのサイトを経由してAmazonの商品が売れた場合に,リンクを張ったユーザーに報酬が支払われるというサービスです。例えば,Amazonで販売されている書籍のタイトルをブログ検索サイトで検索してみてください。多くの個人ブロガーが,その書籍を自分のブログでリンクを付けて紹介しているはずです。

 アソシエイトは,一般ユーザーが自分の意志でクチコミ広告を行う格好になるため,既存のネット広告より信頼性が高いといわれています。最近は非常に多くのユーザーが,ブログなどでアソシエイトを利用しています。

 Amazonは,このアソシエイト・サービスをユーザーが利用できるようにするために,商品データの多くをWebサービスという形で一般ユーザーに開放しています。

 このようにWeb 2.0という言葉は特定の技術を指すのではなく,新しい技術全般を指しています。特に,従来のようにWebサイトが一方的に情報発信するのではなく,ユーザーと対話をしながら構築していくようなスタイルを,Web 2.0と呼んでいます。