アンケートだけでは把握できないユーザーの本音に迫るため,オリンパス,カブドットコム証券,東急建設の担当者に座談会形式で意見を聞く場を設けた。各社のネットワークの実情からNGNに対する期待まで,議論は盛り上がりを見せた。(開催日は2007年6月11日)

現行のネットワーク構成を教えてほしい。

オリンパス IT基盤技術部ネットワーク基盤グループ課長代理 八巻 透氏
オリンパス IT基盤技術部ネットワーク基盤グループ課長代理
八巻 透氏

1990年4月,オリンパス光学工業(現・オリンパス)に入社。光学計算用大型コンピュータの運用を担当。95年ころからネットワーク構築・運用を担当する。趣味は家族や仲間と共に過ごすキャンプ。会社概要 設立 : 1919年 従業員数 : 3万2958人(2007年3月末時点)

八巻(オリンパス) 光学機器メーカーである当社は,全国約60拠点をエントリーVPNで結んでいる。足回りはNTT東西地域会社の「Bフレッツ」だ。基幹系からグループウエア,インターネット,CADデータまで,すべてこのインフラに流している。

 エントリーVPNは信頼性にやや不安がある。そこでバックアップ用として,帯域を極力絞って広域イーサネットで全拠点を結んでいる。

谷口(カブドットコム証券) オンライン専業の証券会社の当社は,インターネット経由で株式取引などのサービスを提供している。拠点は東京都中央区の本社オフィスのほか,福岡市にデータ・センターがある。

 ネットワークは顧客向けと社内向けの二つがある。顧客向けにはインターネットイニシアティブのインターネット接続サービスを利用している。足回りはイーサネット回線とダーク・ファイバを活用した1Gビット/秒の回線だ。

 一方,社内向けは1Gビット/秒の専用線と,バックアップ用に同容量のMPLS(multiprotocol label switching)回線で拠点間を結んでいる。

吉村(東急建設) 準大手の建設会社である当社のネットワークの特徴は,本社・支店間のほかに工事期間中だけ設置する現場事務所を結んでいることだ。事務所は常時500カ所ぐらいあり,1年ほどの工期で撤収する。延べでは毎日新規に2カ所できて,2カ所が閉鎖する計算になる。

 工事現場用のインフラ選びで重視するのは,短期間で敷設できること。このため敷設に時間がかかるBフレッツではなく,既設の電話回線を転用しやすい「フレッツ・ADSL」をアクセスに利用している。各拠点はNTT東西の「フレッツ・オフィスワイド」で接続している。バックアップ回線は特に用意していない。

今のネットワーク構成に対して感じる課題とNGNへの期待は。

カブドットコム証券 システム二課長 谷口 有近氏
カブドットコム証券 システム二課長 谷口 有近氏
フリーのプログラマなどを経て,2001年5月カブドットコム証券に入社。IAサーバーの構築・設計・運用とネットワークを担当。米マイクロソフトの「MVP (Most Valuable Professional)プログラム」受賞者。会社概要 設立 : 1999年 従業員数 : 83人(2007年5月末時点)

吉村 現在の構成に落ち着くまでに様々な改良を施し,コスト・パフォーマンスでは満足行くインフラができた。一方で最近は,インフラの進化が行き止まりになってしまったと感じている。もちろん,コストを増やせばさらに優れたネットワークを作れるが,現状と同コストでと考えるとフレッツ以外の選択肢が見当たらない。NGNが新しい選択肢をもたらしてくれないかと期待している。

八巻 私もコストとの折り合いを考えると現状の満足度は高い。BフレッツやエントリーVPNは全体的に安定している。東日本地域は5月15日にフレッツ網の大規模トラブルがあったが,夜間のうちに障害が収束したことなどから実害はなかった。このサービス・レベルが維持されるなら,あえてNGNに飛びつく必要性を感じないほどだ。

谷口 エンドユーザーと接する立場でお話ししたい。現状のネットワークは,エンドユーザーには難易度が高い。顧客から「Webページを開けない」という問い合わせが我々に頻繁に来る。その都度,アクセス回線事業者の問題か,インターネット接続事業者(プロバイダ)の問題かなど,当社のオペレータは原因の切り分けに追われている。もっとユーザーに優しいネットワークが必要だ。

 では,NGNがその優しいネットワークの役割を担えるかというと,まだピンと来ない。通信事業者が電話網を置き換える以上の意味がNGNにあるのだろうか。NGNにどんな利点があるのかがユーザー側には見えない。

吉村 NGNの位置付けは私も詳しく知りたい。電話網を置き換えるだけなのか,それとも専用線を含むすべてのインフラをNGNに集約するのかが分からない。通信事業者が集約するつもりなら,現行サービスをNGNに移行するまでのシナリオを明示してほしい。

QoSを設定することで,NGNはテレビ電話などのリアルタイム性が必要なアプリケーションを確実に伝送できるとうたっている。

東急建設 経営企画室システムセンター課長 吉村 典之氏
東急建設 経営企画室システムセンター課長 吉村 典之氏
1982年,東急建設に入社。土地造成設計用CADシステムの開発や,景観シミュレーション(CG)システムの構築などに従事。95年から社内インフラの整備を担当する。99年から現職。趣味はスポーツ鑑賞。会社概要 設立 : 1946年 従業員数 : 2438人(2007年3月末時点)

八巻 QoSには関心がある。以前,あるプロバイダの網でインターネットVPNを運用していた。ところが,そのプロバイダがDoS(サービス妨害)攻撃に遭った際に,急激にレスポンスが悪化してしまった。

 こうした非常事態が発生した際に,救出したい最低限のアプリケーションのトラフィックは伝送を保証してくれる。そんなサービスならお金を払っても構わない。もちろん,専用線を引くよりも割安なことが前提だが。

谷口 当社は社内のデータベースのバックアップ作業で使う回線に,相応の帯域とレスポンスを必要としている。現状は,専用線のうち300Mビット/秒の帯域にQoSを自前で設定して運用している。NGNがこの環境に耐えられるなら,ぜひ使ってみたい。NGNの実力が分かるまでは,専用線を使い続けるのが無難と考えている。

 一方,顧客向けの観点では,テレビ電話のニーズは確かにある。例えば顧客にパソコンの操作を説明する場合がある。テレビ電話でパソコンの操作画面を顧客と共有できれば,オペレータが格段に説明しやすくなる。ただし,NGNでなければこうしたサービスができないかというと疑問だ。