NGN(次世代ネットワーク)の標準化はITU-TとETSIで並行して進められている。2005年末から2006年に相次いで策定されたリリース1の仕様は信頼性の高い電話サービスをIP網上で実現するためのアーキテクチャが中心。今後は放送技術などを取り込んでいく。

 通信事業者の次世代網「NGN(next generation network=次世代ネットワーク)」の標準化は2006年7月に一つのマイルストーンを迎えた。通信の国際標準化団体であるITU-TSG13会合において,NGNの概要を規定する主要文書が完成し(表1),勧告手続きが開始された。10月中に大部分が勧告になり,各国の主管庁の確認が必要となるものは2007年4月に勧告になった。

表1●ITU-TのSG13で2006年7月に完成した勧告案群
表1●ITU-TのSG13で2006年7月に完成した勧告案群
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2003年7月に始まった標準化

 NGNは通信網をIP化し,従来電話網などで提供してきたサービスをIP網上で実現する。IP電話やテレビ会議などの新しいサービスも柔軟に提供できる。様々なサービスのベースになり,キャリア・グレードの品質を持つ統合IP網だ。

 ITU-TにおけるNGNの標準化活動は2003年7月,スイスのジュネーブで開かれたNGNワークショップに端を発する。ワークショップ直後のSG13会合では,関連課題を集中的に研究するための組織NGN-JRG(Joint Rapporteur Group)が設置された(図1)。

図1●NGN標準化の経緯
図1●NGN標準化の経緯
ITU-TとETSIのTISPANで並行して作業が進められている。ITU-TではSG11がNGN標準化の中心となる。
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 NGN-JRGにおける議論の中でいくつかの仕様が固まっていった。例えば,(1)ブロードバンド・アクセスの活用,(2)IPパケット網によるエンド・ツー・エンドのQoSの実現,(3)移動体網と固定網にまたがったモビリティの実現,(4)最終的なユビキタス・サービスへの発展だ。さらにこれらを実現するために,SIP(session initiation protocol)による信号制御系の構築に焦点が絞られた。

 NGN-JRGは,2004年6月に勧告Y.2001「NGNの定義と概要」と勧告Y.2011「原則と参照モデル」を完成させ,その後のNGN標準化検討の基盤を整えた。

 一方,欧州電気通信標準化機構ETSI(European Telecommunications Standards Institute)は,2003年9月に,それまで欧州の電話交換網の信号方式を規定してきたSPAN(Services and Protocols for Advanced Networks)とVoIP技術を検討してきたTIPHON(Telecommunications and Internet Protocol Harmonization Over Networks)を統合したTISPAN(Telecoms & Internet converged Services & Protocols for Advanced Networks)プロジェクトを発足させた。

 2004年6月,ITU-TはNGN-JRGを発展的に解消し,期間限定で特定テーマを検討するためのフォーカス・グループ「FGNGN」(Focus Group on NGN)を設置した。参加資格を緩和することでより広く参加者を募り,NGN標準化を集中的に研究する体制を整備した。

 FGNGNとTISPANは市場の緊急な要求に応えるため,優先度の高いものから一かたまりのパッケージとして順に完成させる手順にしている(リリース・アプローチ)。両者とも2005年末をターゲットにNGNリリース1を完成することを目標に検討が進められた。

 FGNGNでは2005年11月までの約1年半の期間に9回の会合を開催し,NGNリリース1の全体像を規定する文書群を完成した。フォーカス・グループは通常1年間を期限としており,1年半という異例の期間にわたってFGNGNが開かれたことはNGNへのITU-Tの力の入れようを表している。

 一方TISPANは,2006年2月には信号方式までを含むNGNリリース1の技術仕様約60件を完成した。TISPANの動向を参考に,ITU-TのSG13ではFGNGNの検討を引き継ぎ,2006年7月にNGNリリース1の概要部を規定する13件の文書が完成し,国際標準の勧告化手続きを開始した(表1)。