前回のコラムに登場した損益計算書を,以下に再掲することから話を始めます(表1)。金額の単位は千円です。

表1●コンビニ店の不思議な損益計算書(単位:千円)

 以降の説明では,表1にある(1)から(15)までを,用語の右側に表示します。

 まず,表1で青く表示した「本部へのロイヤリティ(12)」は,フランチャイズ方式の特徴です。コンビニ店の経営者(フランチャイジー)から,本部(フランチャイザー)へ支払われる手数料です。経営指導料やチャージ料と呼ばれることもあります。表1の損益計算書では,粗利益(11)の60%に相当するロイヤリティ(12)を,フランチャイジーからフランチャイザーへ支払うことになっています。

「ロイヤリティの60%って,高すぎないですか?」

 自ら打って出る営業ではなく,いわゆる「待ちの営業」ですから,フランチャイジーとしては贅沢をいえません。それに,たとえロイヤリティを下げたところで,その代わりにコンビニ店へ卸(おろ)す商品の単価を高めに設定すればいいのですから,フランチャイザーにとってロイヤリティの高低は問題にならないでしょう。

 注目すべきは,粗利益(11)を求める前提となる「II 売上原価」の内訳です。よく見ると,商品廃棄損(3)が売上原価内で控除項目とされています。この計算構造により,商品廃棄損(3)というリスクを,コンビニ店の経営者にすべて負担させる仕組みになっています。

「なるほどぉ,消費期限切れで商品がどんどん廃棄されても,本部の腹は痛まないわけだ。よくできていますね」

 そして「IV 営業費」のところで商品廃棄損(6)を復活させることにより,営業利益(15)がきちんと算出されています。実に見事なサイクル構造を持った損益計算書です。

 表1はやはり変則的なので,次に,普段見慣れた損益計算書の様式に改めます(表2)。

表2●普段見慣れた様式の損益計算書(単位:千円)

 トップの売上高200,000千円と,ラストの営業利益5,000千円は表1と同じ金額ですから,両方の損益計算書に不整合はありません。コンビニ店の経営者に表1と表2の違いを一目で見抜くことができるチカラがあれば,最高裁まで争うほどの事件は起きなかったでしょう。

「でも,多くの人には無理だと思いますよ」

 会計の知識を身に付けることよりも,一攫千金の欲が先行したのでしょうか。だから「だまされた」と,あとになって騒ぐことになるのかもしれません。

 そこで,これらの損益計算書のどこに問題があるのかを見てみることにします。

 まず注目すべきは,表2で赤く表示した商品廃棄損(20)4,000千円です。表1では商品廃棄損が減算と加算を繰り返していましたが,表2の商品廃棄損(20)は売上原価からの減算だけにしています(売上原価への加算ではありません,念のため)。これにより,本部からの当期商品仕入高(17)は158,000千円,売上原価(25)は154,000千円へとそれぞれ膨らみ,表1より4,000千円も多いことが判明します。

 つまり,表1での仕入高は154,000千円ですが,表2では実際の仕入高は158,000千円であり,そのうち4,000千円を廃棄していることを表わしています。しかも,その商品廃棄損はすべて,コンビニ店経営者の負担だということです。

「う~ん,気をつけないと,惑わされちゃうな」
売上原価(25)が膨らむわけですから,拙著『ほんとうにわかる経営分析』133ページにある棚卸資産回転期間PartII(注1)を使うときには注意が必要でしょう。

「それにしても,商品廃棄損をコンビニ店の経営者が全額負担するというのは厳しいなぁ」

 そうはいっても在庫管理責任は,現場の第一線たるコンビニ店が担う問題ですから,やむを得ないところがあります。

 次回は,フランチャイズ制度が抱えるもっと別の問題に目を向けてみることにしましょう。

(注1)棚卸資産残高を月平均費消額で割って,棚卸資産の回転にかかる月数を算出する式。費消額とは材料費や売上原価のこと


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/