インターネット協会のまとめた「インターネット白書2007」を読むと、「Web2.0」というキーワードに対する面白い反応が見て取れる。掲載されたアンケートによると、企業内情報システム担当者の半数以上が今後重要になる技術だと認識している反面、大半の企業では「今後利用の予定はない」のだ。

 このアンケート結果が正しいとすると、昨今話題になっているWeb2.0の企業版であるEnterprise2.0はバズワードに終わり、全く定着しないことになる。筆者はそうは思わない。Enterprise2.0はすでに企業に浸透しつつあり、これからの情報システムを考えるうえで欠かせない、重要な動きだと認識している。

 今回は、Web2.0の成り立ちから振り返りつつ、これらの新しい技術が企業情報システムに与える影響について分析し、最後にEnterprise2.0について再定義してみたい。

Enterprise1.0から2.0と考えるべき

 Web2.0をティム・オライリー氏が提唱したのは2005年のことである。同氏は、自らの手による「What is Web 2.0」のなかで、Web 2.0を特徴付ける7つのポイントを示した。具体的には、「Radical Decentralization」「Rich User Experiences」「Radical Trust」「Participation」「Long tail」「User as contributor」「Folksonomy」である。

 ただしこれらのポイントは、Web2.0に必須の条件というより、激しい競争に生き残ったインターネットの新しいサービスに共通する要素を、後から洗い出して整理した性格が強い。オライリー氏自身、「ネットバブル崩壊時に、ネットへの悲観論を唱える人々に対するアンチテーゼとしてWeb2.0というキーワードを提唱した」と言ったと伝える人もいる。実際に初期段階では、従来のWebを1.0と位置づけ、これが発展した形式を単純に2.0と呼んでいたようだ。

 これに対してEnterprise2.0は、ハーバード大学のアンドリュー・マカフィー准教授が提唱し始めたものだ。同氏によると、その定義は「BlogやWikiに代表されるWeb 2.0の技術を企業のナレッジマネジメントツールとして利用すること」になる(詳しくは同氏による「Enterprise2.0:The Dawn of Emergent Collaboration」を参照のこと)。冒頭のアンケート結果も、こういった発想の延長上にあるといっていいだろう。

 だが、果たしてこの解釈は正しいのだろうか。Web2.0と同様に、これまでの企業情報システムをEnterprise1.0としたうえで、革新した企業情報システムをEnterprise2.0と考えたらどうなるだろうか。2.0の本質は“バージョンアップ”にあると解釈するのだ。

 すると、Enterprise2.0の土台となるのはあくまでEnterprise1.0であって、Web2.0ではないことになる。いったん企業情報システムの現況に立ち戻って分析し、今起きていることや今後起きることを想定する。その際、現実に現れ始めているWeb2.0系のコンセプトの企業情報システムへの浸透状況をよく見ると、Enterprise2.0についてまた違った姿が浮かんでくる。Enterprise2.0とは、既に企業内に着々と浸透している大きな動きだと実感できるのだ。

Mash APによる連携が一般化

 これまで多くの企業では、情報システムは縦割りに個別に構築され、基幹系、情報系、OA系などに分類されていた。縦割りになった各システムが相互に連携していることは少なく、他のグループのシステムとなると、システム構築者が相互の存在すら知らないというようなことすら珍しくはなかった。

 開発や運用のコストの負担部署を明確にしなければならなかったという事情もあるが、たいていの場合は、利用部門ではなく、情報システム部門やシステム会社の都合で、システムの役割や処理範囲を決めてきたことがその理由である。

 多くの企業の一般社員は、自分が業務プロセスを進める手順とは全く別に、処理範囲に応じて都度別のシステムを切り替えて使わざるを得なかった。業務プロセスの流れに沿った形で情報システムを利用できたほうが、利便性が向上するに決まっている。

 実際に、こういった利用部門の要望は強まってきている。

 ここ数年にわたって叫ばれているSOA(サービス指向アーキテクチャ)というコンセプトは、複数の業務システムをサービスの一種と位置づけ、企業内においてこれらを統合するためのものだ。最近では、社会環境の変化に伴って、社内外の情報を単一の画面内に表示して活用したいというニーズも顕在化してきた。Enterprise2.0の登場を待たずして、企業内におけるシステム統合やシステム連携の新しい形の模索は始まっている。

 Web2.0では、「Radical Decentralization」の具体例として「Mush up」いう言葉を良く使う。これは企業内では、「Mush AP」という形で従来の個別システムの区別を超えた他のシステムとの、あるいは基幹系や情報系、OA系といった枠組みを超えたシステムの接続や連携を示すことになる。当然この時には、Web2.0で鍛えられたWebサービスAPI系の技術の積極的な採用が進むはずである。

ブラウザによるユーザインターフェースの統合化が進む