大和証券グループ本社のCIO(最高情報責任者)である中村 明・常務執行役

 大和証券をはじめとして様々な金融サービスの事業会社に持つ大和証券グループ本社。同社でグループ全体のIT(情報技術)部門を率いるのが、常務執行役の中村明氏だ。持ち株会社のCIO(最高情報責任者)である中村常務の役割は、「グループ全体最適化」を考えることである。ディザスター・リカバリー・プランや情報セキュリティーなどグループ全体で考えなければならない案件に取り組んでいる。

 もう一つの中村常務の役割が、情報部門の最適化である。IT投資額は各事業会社の収益目標を達成できるように、各社のCIOが中心となって決めている。各社で重複した投資がない限り、中村常務はあまり口を挟まない。グループ全体の最適化を目指して調整が必要なのは、傘下の事業会社で主に開発を担う大和総研の人員繰りである。開発要員に限りがあるため、グループとして取り組むべき優先順位をつけていく。各社のCIOと協議しながら、グループ全体の視点で最適化を図っている。

 中村常務は持ち株会社のCIOに就任するまで、大和総研で通信会社や官公庁のシステム構築に携わってきた。システムベンダーの立場も経験している。ユーザーと提供者側の両面の立場を経験したことで、ベンダーに要望したいのは専門性の追求である。「長い経験のSEであっても、業務知識ではユーザーに負ける。ユーザーもそんなことは求めていない。自らの専門領域をもっと強化すべきだ」と語り、現状に非常に危惧しているという。

 中村常務にとって、今の最大の関心事は東京証券取引所の次世代システムへの対応である。この関連の投資を含めてグループで3年間に2000億円をITに投資している。この対応でも、事業会社のCIOと持ち株会社のCIOでは役割が異なる。取引所との通信方式の変更や通信速度向上によるサーバー能力の向上といったインフラ面で必要な対応は、各事業会社のCIOが中心になって取り組む。中村常務は、事業会社が手が回らない中長期の視点の課題解決にあたる。その一環として、インフラが変わった際の投資家の動向を研究中だ。事業会社は目先のシステム投資に集中し、中村常務は中長期の視点で先手を打つ。この分業体制でシステム開発に取り組んでいる。
(詳しくは、7月24日発売の日経情報ストラテジーに掲載)

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・CEOがITに対して求めているのは非常に明解で、グループの最適性です。グループの一体感を出せるように取り組んでいます。グループ内で人事異動をしようにも、システムが阻害するといったことではまずいので、「こうしたことがないように」と言われています。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞、日経金融新聞、日経産業新聞、朝日新聞
・日経ビジネス、日経コンピュータ、日経情報ストラテジー、週刊ダイヤモンド

◆最近読んだ本
・『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』(リサ・ランドール 著、塩原通緒 訳、日本放送出版協会)

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー・学会など
・情報は主にリサーチ会社を使って取り寄せることが多い

◆ストレス解消法
・俳句・坐禅・お寺と史跡めぐりなど