UHF帯無線ICタグ・リーダーに対する総務省の新指針が波紋を広げている。リーダーが発する電波がペースメーカーに悪影響を与える恐れがあり、それを警告するステッカを表示せよという内容だ。その指針を受けて、UHF帯の採用を断念するユーザーも出てきた。

 「UHF帯ICタグ・リーダーの店頭利用はあきらめざるを得ない」(高島屋の新倉有文IT推進室IT推進担当次長)。高島屋は、棚在庫をリアルタイムに把握できるスマートシェルフに、UHF帯を採用することを断念した。総務省が4月24日に公表した新指針がその理由である。新指針では、UHF帯リーダーを設置する際に、ペースメーカーの装着者に対して、1m以内に近付かないことを警告するステッカを張ることを義務付けた。対象者は限られるが、店頭にあたかも危険物を置いているような表示は困難と高島屋は判断した。

 高島屋は現在、紳士用シャツの売り場で13.56MHz帯を使ったスマートシェルフの実験を進めている。その結果、販売成約率が3割向上するなど、成果は上々だ(詳細はこちら)。ところが13.56MHz帯のスマートシェルフはコストが高い。通信距離が最大60cm 程度と短いため、数多くのアンテナを棚に取り付ける必要があるからだ。3~5mと通信距離が長いUHF帯なら、アンテナの数が減り、コストを下げられると期待していた。ところが総務省の指針により断念に追い込まれた。

 総務省の新指針は、ペースメーカーなどの医療機器に対して、電波を利用する機器が与える影響を調べた結果、出されたものである。2000年度から毎年実施している実験の中で、昨年度はUHF帯リーダーを試し、問題が発覚した。最大75cmの距離で誤動作するペースメーカーが出てきたのだ。

 もっともこのステッカの表示が義務付けられたのは、最大4Wの高出力型リーダーで、かつ据え置き型のものだけである()。卓上型など免許がいらない低出力型(10mW以下)は実験でも悪影響が見られなかったため対象外。高出力型(最大4W)でもハンディ型やゲート型では不要である。ペースメーカーが悪影響を受けるのは、高出力型から数分程度連続的に電波を受けた場合だけであり、その可能性は低いからだ。さらに工場内や倉庫内など、不特定多数が入れない場所でも、ステッカは表示しなくてよい。最終的に指針の対象になったのは、スマートシェルフのように不特定多数の人が近付き、一定時間そこにとどまる可能性がある場合だけとなった。

図●UHF帯対応ICタグ・リーダーに対して総務省が出した新指針
図●UHF帯対応ICタグ・リーダーに対して総務省が出した新指針

 それでもICタグ関連機器メーカーからは今回の指針が厳しすぎるという不満が出てきている。実は実験で悪影響を受けたのは、試したペースメーカー31機種のうち、96~98年に販売が開始された1機種だけ。受ける悪影響も、生命の危険を伴うものではなく、めまいや動悸(どうき)を起こす恐れがあり、リーダーから離れれば元に戻るというもの。実験を行ったメンバーからはその1機種の装着者に対して、個別に告知すれば十分という意見があった。総務省はそれでも安全サイドを見て、一律の規制を設けた。

 米国などでは同様の規制はなく、米ウォルマート・ストアーズは1000店舗にUHF帯リーダーを設置済み。電波開放に遅れた日本での普及がさらに遅くなる恐れがある。