■中小ソフトハウスの経営者・経営陣の皆様に伸びる会社の絶対条件をお話する第2回目は、経営者の成長マインドの問題です。どんな経営者も成長したいという欲はあるのですが、ここに落とし穴が潜んでいます。

(長島 淳治=船井総合研究所 戦略コンサルティング部)



「社長、本気で御社を成長させたいと考えていますか?」
これは私が無料経営相談の際、必ず経営者に聞く質問です。

この段階で、「いや~少し迷っています」という方は論外です(たまにいらっしゃいますが)。しかし、「当然です!」と返事をされる方の中にも、実は硬い決意も無く、何となくそんな気持ちだからという経営者が結構いらっしゃるのです。

そもそも、こんな当り前の質問を大真面目でお聞きするには理由があります。前回、会社の成長には業種・業態を問わず壁が存在すると述べました。例えば、ソフト業界でも年商10億円を超える企業は、全体のわずか14%弱です。多くの会社がそれ以下の規模で止まってしまうのが現状です。

「中小企業は99.9%経営者で決まる」
これは船井総研創業者、船井幸雄の言葉です。実は成長できていない中小ソフトハウスの成長の壁を作っているのは、経営者自身なのです。多くの経営者が実は、このままでも良いんじゃないかと考えているのです。信じられますか?

強い決意はどうして必要なのか

前回お話したように、年商3億円で突き当たる成長の壁は、経営者個人の力で伸ばせる限界の壁でした。すべての業務を経営者一人で管理するため、経営者の仕事量がそのままボトルネックとなります。

それでは、その壁を突破するためには、どうしたらよいのでしょうか?

実は答えは非常に簡単です。経営者が一人でこなしてきた仕事を、社員で分担できればよいのです。つまり個人から組織へと経営システムそのものを転換するのです。

しかし、組織を作ったとしても、なぜかうまく機能しません。なぜか問題が多発します。結果は、経営者が問題修復のために現場に逆戻り。せっかく作った組織を経営者が無視します。再び仕事が経営者に集中する状態となるのです。一見、仕方が無いように見えます。ところが、ここに経営者の本音があります。

年商3億円前後で、経常利益が3%程度出せているソフトハウスの経営者は、ある意味で王様です。権限はすべて自分に集中しています。お客様も経営者の人柄を信頼し、仕事を任せてくれています。自分の給料を決定するのも自分ですし、社員はすべて社長の指示通り動きます。いわば「小成功状態」になるのです。

もしもあなたがこの状態を手にしたら、手放したいと思いますか?

確かに経営的にはまだまだ不安定です。仕事の取り方も人脈に依存しているケースが大半ですし、取引先に何かあれば連鎖的に経営不振になる企業も多くあります。それでも、そこに自分が主役のステージがあるのです。捨てられますか?

実は、この「小成功状態」が成長意欲を減退させる大きな要因となっています。経営者にも、成長のためには組織が必要だと分かっています。しかし、組織を作るという事は、権限を委譲し自分の手の届かない範囲に仕事が拡大する事を意味します。現場で感じられた優越感を持てなくなる可能性もあります。そこで心がこうささやくのです。

「このままの規模で幸せなんじゃないの?」

何のために成長するのか、それに真剣に向き合う

創業当初の経営者は、ほとんどが私欲のために働いています。

・良い生活がしたい
・良い車が乗りたい
・誰にも邪魔されずに仕事をしたい
・組織に縛られたくない

会社を3億円規模にまで大きくするためには、ある意味で私欲が無ければいけません。やはり最初は自分のために働くのです。しかし、社員数が30人を超えてくると話は違ってきます。考えてみて下さい。こんな依頼をして、社員はやる気が出ると思いますか?

「俺があの車を欲しいから、今日から君たち残業してくれ」

そこで大切になるのが、会社を成長させる理由です。これは社員への目標設定としても大切な要素ですが、社長自身が今の小成功体験からの決別を決断するためにも非常に重要になります。

世間一般では「経営理念」や「ビジョン」「ミッション」と呼ばれますが、私はこれを「夢」と表現しています。経営者が本当に会社を大きくする必要性を感じる「夢」を描くことが大切です。

・業界の地位向上をリードする会社を創りたい
・社員が定年まで安定して暮らせる会社を創りたい
・業界でシェア1位を獲得する会社を創りたい
・社員の夢を実現できる会社を創りたい

こういった大いなる夢が経営者の小さな我欲を凌駕した時、経営者が本気モードで会社を大きくする視点に立つことになります。自分の過去の成功体験や今の地位を捨てて、さらに大きな夢に向かって走り出すことができるのです。

中小企業は、99.9%経営者で決まります。今の状態を作っているのは、経営者の心です。最初に決断して下さい。夢を真剣に考えて下さい。本当に実現したいこと、そこに会社の未来があります。

次回は、この夢の探し方についての具体的な発想法についてお話させていただきます。


著者プロフィール
1998年、桃山学院大学経営学部卒業。某大手SIerでの営業を経て、船井総合研究所に入社。以来、年商30億円未満のソフトハウスを専門にコンサルティング活動を行う。「経営者を元気にする」をモットーに経営計画作り、マーケティング支援、組織活性化のため全国を飛び回っている。毎週1回メルマガ『ソフトハウスのための幸福経営論』を発行。無料小冊子『ソフトハウスが元気になる30の法則!』も発刊。